LLP Labo -FF14 エオルゼア研究所-

ウマいヘタ関係ナシに楽しくがモットーな人達の宴

8月のエオルゼア 19.08.03

 

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エオルゼアの中で居場所を失った。現実は相も変わらず朝が訪れる。
昨晩乾かしそびれた髪がいつもより少し傷んでいるような気がした。

今朝のニュースは人気俳優長谷川啓太の結婚の話題で持ち切りだった。チャンネルを変えても話題は同じ。何故だか明るい気分になれなかったのは、その俳優が好きだったからという訳でもなく、ただ単に私が昨日に取り残されているだけなのだろう。
いつもの道を歩き、あの曲がり角で今日は立ち止まらず軽く会釈をして去った。

更衣室での話題も人気俳優の結婚だった。
「啓太くんが幸せなら私、応援する」
人気俳優長谷川啓太の大ファンだという二つ下の彼女は目を潤ませながら力強く言う。
私はその場の空気に合わせて同調した。

風呂上り、パソコンの電源を入れ、メールをチェックする。
そして、気付いたらログインしていた。習慣だった。
「こんばんは」
赤文字で返ってくるエラーメッセージ
そうだった、もうFCないんだ……私もやめちゃおうかなー。
突然鳴るメッセージ音。Tellと呼ばれる特定の相手と1対1で話すことが出来る機能だ。
「聞いて・・・感じて・・・考えて・・・」

「誰?」
「私はアナタの心に問いかけています」
正直頭のおかしいヤツだと思った。どうせ暇だし少し相手してみるか。
「なんですか?」
「お一人ですか?」
なんだ、勧誘か?
「FC解散したばかりで今はFCとか考えてないんで」
「そうなんですね、どうして解散しちゃったんですか?」
普通そんなことわざわざ聞いてくる? めんどくさいなー。
「マスターが疲れたからって」
「なるほど。そのFCアナタは楽しめていましたか?」
なにコイツ怪しくない?
「毎日ログインするのが習慣になるくらいには・・・FCがなくなってやることもないのに今日もログインしちゃったし」
「なるほど。受け取り方はお任せしますが、それはマスターが楽しませてくれていたのではないでしょうか?」
あー、言われた。分かってるよ、分かってたよ。マスターがいなくなった理由も全部全部全部。
「じゃあ、どうすればよかったっていうの!?」
あなたに何が分かるって言うの!?
自然と語気が強くなる私の前に現れたのは、羊の恰好をした大男だった。

 

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「探してみませんか?」
「・・・何を?」
「貴女の楽しいを」
「楽しいを探す・・・?」
「楽しみ方は自由、人それぞれ。合う合わないもあります」
「どうすればいいの・・・?」
「最初の一歩はみんな自分で踏み出していますよ」
「今までマスターに甘えてばかりで自分から何かしようなんて・・・」
「ログインは誰かが勝手にしてくれましたか? 自分でしましたよね?楽しむために自分で起こした行動です」
そうだ、私楽しもうと思ってこのゲーム始めたんだった。
いつからだろうか、楽しませてもらうのが当たり前だと錯覚してしまっていた。

 

「あー、髪がごわつく、あの羊のせいだ」
連日乾かし忘れた私の髪は一層傷んでいる気がした。
今朝のニュースに幼い命を奪った曲がり角の事故は取り上げられなかった。
少しずつ世界から忘れられていってしまうような気がして悲しかった。
いつもとは違う花屋のある道を通り、会社へ向かった。最後の曲がり角、そっと花を添えて手を合わせる。
今日もくたびれた革靴が目に入った。目が合わぬよう一礼をして、その場を去った。
家族以外に私のことを覚えていてくれる人がいるのだろうか。


ぼんやりとしていたせいか、仕事に小さなミスが積み重なる。
それを取り戻すのに2時間もかかってしまった。いくら夏至が近いと言っても流石に日も暮れる。
「めずらしいね、こんな遅くまで」
声を掛けてきたのは、会社に住んでいるのではないかと噂される小坂先輩だった。

私の三期上で、初めて彼女を見たときは絵画の中から飛び出してきたのかと思う程美しく、秋田出身の彼女はまさしく秋田美人という言葉に相応しかった。しかしながら浮いた話を聞かないのは高嶺の花という訳でもなく、彼女の豪快な性格が原因かもしれない。
そして私は彼女が出社するところも帰るところも見たことがない。
「なんだかぼんやりしてて……」
「藤野さんでもそんなことあるんだね、ちょっと安心したわ」
今のは失礼かな、と先輩の綺麗な顔が子供の様にくしゃりと笑う。
「仕事楽しい?」
「いえ……でも仕事は仕事ですから」
「ふーん、そっか邪魔したね」
小坂先輩は、がんばって、と私のデスクに缶コーヒーを置いていった。
窓際に行った先輩は花瓶の花に話しかけている。

 

綺麗に整えられた献花、お供え物に向かって、手を合わせる。
目を開けると、くまのぬいぐるみと目があった。
――私は忘れないよ。
なんのつながりもないけれど、世界から置いてけぼりにされてしまうようでどこか自分と重なるような気がした。

 

「あの・・・! 私をFCに入れてくれませんか?」
私の中で何か変化があった訳ではない。どちらかと言えば変化を求めていたのかもしれない。
羊の男は、うんと一つ頷くと私をFCに招き入れてくれた。

 

驚くほどたくさんの人で溢れていった、高速で流れていくチャット欄。
「在籍200名、深夜でも20人以上いるFCですからね。最初はみんな驚きますけど、すぐ慣れますよ」
挨拶も一通り終わり、メンバーの一人にハウスを案内してもらうこととなった。
前のFCのハウスより倍近く大きかった。内装も整っており、手が込んでいるのが素人目にも分かった。
「ここが定例会とか行う会場、月1で行ってて過去の議事録とか見れるから良かったら見てみて」
手際よく案内して回るローザさんについて回る。
ふとウソウソ提灯が目に入り、立ち止まった。

 

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ローザさんは立ち止まった私に気付き駆け寄った。

「ウソウソ、可愛いですよね」
「ええ、いつもウソウソ連れてる人がいて、つい懐かしくて」
ハウスに入ると一番に迎えてくれるのがこのウソウソ提灯だった。こことは比べ物にはならないけど、マスターが一生懸命作った可愛らしいハウスも好きだった。
「ローザさんは案内担当なんですか?」
私の様子をうかがいながら順序良く手慣れた様子で案内していく様に関心すら覚えた。
「んー、担当とかじゃないけど、手が空いてたらって感じかな」
「ボランティアみたいな感じですか?」
「違う違うw私が案内したいからしてるだけ」
案内したい……? そんなモノ好きいる?
「うん、好きなんだ。このハウスもこのFCも。ここにいる人たちも。だから私の好きなものを紹介してるだけ!」
ゆっくりと歩きながらローザさんは続ける。
「ほら、好きなものの話してるときって楽しいでしょ?」
「大好きなんですね」
「うん! 大好き!」
羨ましい。そんなに自信を持って好きと言えるもの私にあるのだろうか。
「今日はありがとうございました。そろそろ寝ます」
「うん、なにか分からないこととかあれば聞いてね! おやすみなさい」
――おやすみなさい。

 

 

8月のエオルゼア
- シロツメクサの憂う夜 19.07.27
-- ゲネラルパウゼに響く声 19.08.03
--- 次週 雨上がりに伸びる影 19.08.10

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