LLP Labo -FF14 エオルゼア研究所-

ウマいヘタ関係ナシに楽しくがモットーな人達の宴

8月のエオルゼア 19.08.17

 

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「へぇー、マメだね」
私の作っていた資料を見て小坂先輩が言う。昨日休んでいたのが嘘のようにいつもの調子だ。先輩は私が所属する総務部ではなく、営業企画部の人間だが、いつも用もなくいろいろな部に顔を出している。とりわけ総務部はお気に入りのようで毎日現れる。
「これ毎回やってんの? 真面目だな~」
「いえ、ただの習慣ですから」
 誰に言われた訳でもない。まだやる気に満ち溢れていた新入社員の頃に始めて今もなんとなく続けているただの習慣だった。
「そうだ、こんだけよく見てるんだったらさ、企画書とか出してみたら? 毎日の習慣の中に新しい刺激を!」
 と、いつもの調子でペロリと舌を出す。
「そんなの出したことないですし、それにそんなつもりで収集してた訳じゃないですし」
「だったら私が書き方教えるからさー、つもりとかつもりじゃないとかどうでもいいからさー、ねー、やろーよー」
駄々をこねる子供のような先輩に思わず笑った。
「何でですか?」
「え? 私が楽しいからに決まってんじゃん」
やっぱりおかしい。でもなんだか楽しいこと出来そうな気がする。
 
エオルゼアでの生活は順調だった。最初こそ活気と勢いに飲み込まれてしまいそうな気がしたが、一緒にコンテンツに参加したり、その場にいるメンバーと談笑したり。少しずつだけれど馴染んでいけている実感はあった。
 七夕の夜、エオルゼアの星空を見上げながらFCメンバーと夢や希望、目標を語らっていた。不思議なことに少しばかり照れくさいようなことも言えてしまうのは、現実では顔も名前も知らない、だけど家族のような、仲間だからなのかもしれない。
「企画? すごいですね、私なんて卒論のテーマすら決められなくて大変」
「最初は、先輩に乗せられて無理やりという感じだったけど」
「自分でアイデア出して何かを生み出そうとしてるってことですよね! やっぱりすごいな」
「実現できるか分かんないですけどね、でも今は実現させたいって強く思うんです」
「やりたいことに向けて頑張るのってすっごく大変だと思うけど、でもすっごく充実しますよね」
「なんかね、このエオルゼアの中でもイベントとか考えてみんなと一緒に楽しんでる人多いじゃない?」
「うちのFCは特に多いですね」
「私もそんな風になりたいな~、ってなんか思っちゃったんですよね。誰かの為にって想いもあると思うけどそれだけじゃなくて、その人自身が一番楽しんでて、すごく輝いて見えて」
「分かります! 僕もおんなじようなこと思ってます! なかなか行動に移せないですが……」
「私も。だから思いついたことからやってみようかなって思って。上手く行かないかもしれないけれど、今ならそれも楽しめると思うんです。何もしなかったらきっと何も変わらないままだから」
「なんかやる気出てきました! 僕も卒論頑張ります!」
一緒に頑張りましょう。そう言って大学生の彼がログアウトすると、夜空に一筋の星が流れた。
 

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連日残業をして、時には家に持ち帰って企画を練り上げていった。
「――を能動的体質へ導くシステムかー、難しそうだけど出来たら最高だね」
会議で離席中だった部長が戻ってくる。先輩が部長をちらりと見てまた私を見る。
立ち上がり一つ深呼吸をして部長の元へと向かう。
「部長! 目を通していただきたい資料があるのですが、お時間宜しいですか?」
部長が私の差し出した資料に目を落とす。
「企画書? なんで? うち総務部だよ? ごめん、忙しいんだ、あとにしてくれる?」
突き返されて自席に戻る姿を見て笑いをこらえているのは私をけしかけた張本人だ。
「なんで笑ってるんですか?」
「タイミング悪かったね」
先輩は無邪気に笑いながら、手を合わせごめんごめんと繰り返した。
 
「あー、駄目だったかー」
ログインして挨拶を済ませ、ベッドに横たわる。
いつも暇そうにしてるくせに。と愚痴が止まらないが不思議と嫌な気分じゃなかった。
メッセージ音が鳴る。大学生の彼からだった。
「いま少しお時間いただけませんか?」
「大丈夫。どうしたの?」
彼の話は就職するまで、休止するというものだった。
「今の生活はすごく楽しくて毎日が充実していますが、今のままじゃいられない。僕も変わらないと。そう思って……。与えられるものを待つだけじゃなくて自分から立ち向かっていきたいとそんな風に思ったんです。卒論もしっかり書いて、就活も最初からやり直しです。妥協はしないことに決めたんです」
「最初からじゃないよ、今までの経験や感じた想いは必ず君の味方になってくれるから、大丈夫」
昨日今日の積み重ねで明日が訪れる。これは先輩の受け売りかな。
「自分の想いに自信を持って明日を迎えようと思います」
必ず戻ってくるので、忘れないでくださいねと笑いながら彼は去っていった。
 

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――自分の想いに自信を持つ。か。
「思い付きで企画とか出されても困るんだよ、いま忙しいの分かるでしょ?」
「思い付きじゃありません」
私が習慣として日々収集していた5年分のデータを提示する。
部長の視線が資料と私の顔を往復する。
「そうか、わかった。読んでおくからそこ置いておいて」
資料を見た部長は観念したかのようにため息交じりにそう言った。
「あのハゲやっと読む気になったか」
 先輩がケタケタと笑う。
「先輩、聞こえますよ」
「いいんだよ、聞こえても。見れば分かる事なんだから」
「そういう問題じゃ」
「とりあえず第一フェーズ突破だ」
「でも、突き返されたら。また……」
ため息を吐く、私の肩を先輩がポンと叩く。
「大丈夫、あの人はなるべくしてあの席に座ってる人だからちゃんと見る目あるよ、仕事のしすぎでハゲてんだけどね」
 クスクスと笑う先輩を訝しげに見る部長の視線が怖かったけど、気にしていたら可哀そうだからと先輩を諫めながらも釣られて笑ってしまっていた。
 
 
8月のエオルゼア
- シロツメクサの憂う夜 19.07.27
-- ゲネラルパウゼに響く声 19.08.03
--- 雨上がりに伸びる影 19.08.10
---- 星合いに想う空 19.08.17
----- 次週 葉落ち穂張る月 19.08.24
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