LLP Labo -FF14 エオルゼア研究所-

ウマいヘタ関係ナシに楽しくがモットーな人達の宴

4月のエオルゼア

 春、それは心が行き交う季節。春、それは木々が芽吹く季節。春、それは人々が出会う季節。そして別れの季節。

まだ少し冬の香りが残る空気を吸い上げ空を見上げる。青いキャンパスに白い絵の具を垂らしたようにはっきりとした雲が気持ちよさそうに泳いでいる。

肺に収まった冬の空気を思い切り吐き出したかったけれど、ぐっとこらえて飲み込んだ。息を止めても、すぐに口や鼻から漏れ出していく。苦しくなって慌てて新しい空気を吸う。吸っては吐いて、時折息を止めたりして、段々と息の仕方が分からなくなっていく。いつも無意識にしてた呼吸が出来なくなる。息を吸って吐いて頭で考えないと上手くできない。どうやって吸うんだっけ。どうやって吐くんだっけ。苦しい。空気に溺れている。

春、それは出会いと別れの季節。息を吸って吐くように、出会っては別れていく。

私は春に溺れている。

 

 

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息を吐くのが辛いのなら、息を吸わなければいいじゃない。

どこかの時代の誰かが言った「パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない」にも似た滅茶苦茶な発想にも思えるが、あながち間違いでもない。

別れが辛ければ、出会わなければいいじゃない。

出会うつもりなんてなかった。でも気付いたら出会っていた。とても大切に想うアナタと。いまも私の胸はアナタで満ちていて、アナタに出会わなければ、暖かな春の空気も心地よく吸えたのかもしれない。

でも、出会わなければよかったなんて思わない。とても大切な思い出。どうやら私の身体も空気を吸えば勝手に吐き出されていく。だからどこかへ霧散してしまわないように、少しだけアナタとの思い出をここに吐き出してみようと思う。

誰にも見せるつもりもない、私だけの物語。

 

アナタとの出会いはインターネットを介した電子世界の中だった。2進数を根源とする0か1かの世界。たくさんの0と1を織り交ぜて出来上がったのは現実にも似た、時折現実を凌駕しているとさえ感じる美しい世界。私はエオルゼアでアナタと出会った。

顔も見えない相手とのやりとり。表情も声色も伺えない。チャット欄に表示される暖かな言葉とは裏腹に冷たい感情が隠されているかもしれない。でもそれは現実の世界でも同じだ。笑顔でにこにこと平気で嘘を吐く人もいれば、不器用に思ったことを思ったままにしか伝えられない人もいる。

どちらかと言えば、私もアナタも後者。世渡りが下手なタイプの人間。嘘を吐くことの全てが悪だとは思わない。人と人が生きる中で大切なものだと思う。それでも私は自分の嘘に、自分の言葉に責任を持てるほど出来た人間でもない。だから口を閉ざして必要以上のことを言葉にしない。私の心はとてもお喋りなのに。

よくよく考えれば私も平気で嘘をついている側の人間かもしれない。本当はおしゃべりなのに、何も言わないようにしている。アナタに伝えたい事たくさんあったのに。

ここではそんな嘘つきでおしゃべりな私が、ただのおしゃべりな私として言葉を吐き出して行こうと思うから温かい目で見ていてほしい。

「誰に?」

「さあ?」

「ハルくん?」

「ハルくんには見せられないな」

「じゃあ、未来の私?」

「そうかもしれない」

いつか思い出が擦り切れてしまいそうになったら、私はこの言葉たちを読み返そう。

 

出会いは単純だった、困っている私を助け導いてくれたのがアナタ。不安でいっぱいな私を優しさで包み込んでくれた。吊り橋効果もあったのかもしれない。でも出会ったその時から、まるでひな鳥が初めて親を見たかのように既にアナタを好きになっていた。我ながら惚れっぽい軽い女だと自嘲した。でも好きになって大切に想うようになったのはアナタの優しさや暖かさに触れたから。私の心臓は高鳴り、胸はアナタで埋め尽くされていった。

アナタの側にいるだけで、とても心地よかった。上手く表現できないけれど、例えるならば、太陽の光をいっぱいに浴びたふかふかの布団の中でうたた寝するような心地よさだった。うん、良く分からないけれどそんな感じだ。

 

家で過ごす時間はほとんどインターネットの海にどっぷりと浸かっていた。このインターネットにどっぷりつかっている時間が仕事だったらいいのに、ゲームをしている私にお給料を支払ってくれる人いないかな。プロゲーマーになれば、ゲームをしているだけの生活が送れるんじゃないか。そんな頭の緩い発想をしてしまうくらいには生活の一部になっていた。

プロゲーマーになれるどころか一般プレーヤーのレベルにすら到達が困難なほどゲームは下手だった。もう少し上手く出来ると思っていたのだけれど、思った以上に難しい。でも難しいからこそ頑張ろうと思えた。そして下手だからこそアナタの優しさに気付けたのかもしれない。そう考えるといまのままでいいやと思った。

そもそもプロゲーマーは仕事としてゲームをしているのだから、楽しいだけではなく効率や攻略とかいろんな難しいことを考え研究しなければならないだろう。うん、私には無理だ。考えようとしただけで頭が痛くなりそうだ。

私は難しいこと考えないでこのエオルゼアという温泉に浸かって癒されるだけでいい。温泉の効能や効果なんて知らない。心地良いからそれでいいんだ。

この右手と左手を同時に別々のことをする作業が非常に難しいと思う。右脳と左脳から送られる信号が事故渋滞して全く何も動かなくなる。器用な人間なら右手はこうして、左はこうするから。なんて考えもなく反射で操作できるのだろうけど、不器用な人間は右手ってどっちだっけ? 左にあるのが右手じゃない方? などと混乱していくのである。

左のスティックを上に倒すと前に進む。前が上で下が後ろ。右のスティックはカメラを操作する。上に倒すとカメラが下で下に倒すとカメラが上。ほらもう意味が分からなくなってきたぞ。どうだいこれが不器用な人間の脳内だ。器用なキミたちも文章にされると訳が分からなくなってくるだろう?

親指の役割重すぎない? もうちょっと役割分担した方がいいんじゃないかな。親指は左右に1本ずつしかないのに、スティックをそれぞれ操作する役割に加えて、ボタンを4つずつ割り当てられている。真ん中のボタン、なんだこれ小さなボタンも押す必要がある。これは親指ストライキが起きても文句は言えませんね。私の親指はよくストライキを起こします、それは当然のことだと思います。

でも、親指の言い分を全て受け入れることは弊社としても致しかねる訳で、仮に親指氏と同様に薬指氏に役割を与えてしまったらどうなるかは、自明の理である。弊社の薬指氏は言わば会社を彩る花のような存在な訳で、いるだけで十分なのです。そんな彼女に仕事を分け与えようなど言語道断。撤回、出来るハズない、そんなに器用に指先を扱えないのが弊社の魅力の一つです。

だから、親指くん頑張れ! 私には君を応援することしか出来ない! 私の親指がんばれ!!

 

そんな親指くんがもう数えきれない何度目かのストライキを起こしたある日、出会ったのがアナタでした。みんなのように上手くできなくて申し訳ない気持ちでいっぱいだった私に手を差し伸べてくれた。私の親指の特訓をしてくれると言った。

それからといえば、常にアナタは私の側にいてくれて、何をするにもどこへ行くにも二人一緒で、それを友人にからかわれたりする。そんなことすら幸せに感じる時間を過ごした。

「お前らいつも一緒だよなー」

「うん」

 好きだから。

「そんなにべったりで窮屈になったりしない?」

「うん」

 幸せだよ。

「飽きない?」

「うん」

 好きな人の側にいるのを飽きたり窮屈に感じる訳ないじゃない。だって好きなんだから。キュンと胸が高鳴って、それを悟られないように堪えることはあるけれど。

「サクラは俺の身体の一部みたいなもんだよ、一部どころか半分かな」

 私の心のままに、お喋りな私でいられたらいいのに。私はこの気持ちをどうやって伝えたらいいか分からない。アナタは「無理に言葉にしなくてもいいよ。ちゃんと伝わってるから」と言ってくれた。本当にアナタに甘えっぱなしでいつもの二文字の言葉で返すばかり。

「うん」

さらっとすごいこと言ってるように見せながら、すごく照れてるアナタがとても可愛くて愛おしく思います。照れ隠しに人前だと少しツンとするところも最高です。私の欲しい言葉を私の心の隙間をぴったりとハマるピースで埋めてくれるアナタはきっとパズル上手なんだと思います。私の心が何ピースあるのかわからないけれど、アナタは私の心を綺麗に埋めて満たしてくれる。

空っぽの心が、お喋りだけ上手なこの心が、いつの間にか満たされていて私の心が色で溢れて行って、私もここにいていいんだって思わせてくれる。

アナタは私の一部どころじゃないよ。もう全部がアナタでうめつくされているの。頭の中が心の中がアナタでいっぱいで、もともと空っぽみたいなもんだから、アナタしかいないの。アナタに出会う前の空っぽの私が思い出せないくらいに今はアナタで溢れているの。

でもこんなこと言ってしまったら、重すぎるよね。やっぱりお喋りなのは心だけで。アナタはたくさん伝えてくれるのに、私だけ、ずるいかな。少しずつだけど、アナタへの想い伝えられるように頑張ろうと思う。頑張りたいなって思う。

「いいなあ、俺もお前らみたいな恋したいぜ。ちくしょう」

 友人が泣いたふりをするのを見て笑う。

「ほら、お前の赤い糸あっちの方に伸びてるぞ? 行って来いよ」

「まじか、行ってくる!」

 アナタがからかうと彼はどこか遠くへ走って行った。そしてまた二人だけの時間。アナタが私以外の人とお話しているのを見るのも好きだけど、二人きりでいるときのアナタも大好き。本当に甘ったるくて胸焼けしそうなくらいの優しさで包み込んでくれるから、つい甘えてしまうの。こういうのバブみがあるっていうんだっけ。思わずバブーって言っちゃうかもしれない。心の中ではアナタにバブバブしっぱなしなの。……使い方あってる?

 でもそんな私もアナタに甘えっぱなしじゃなくてアナタを甘えさせたい。そんな風に思うの。だからたまに一人で頑張ってみたり、アナタがしてくれたみたいにアナタの知らない世界を私が案内してあげるの。アナタは物知りだから、なかなか見つからないもので、一人で世界をくまなく旅する時間も増えた。一人の時間もアナタの事を思っていると楽しくて仕方がない。

今日も何も見つからなかった。私はアナタに綺麗な景色を見せたかった。前に空を見上げるのが好きだって、冒険に疲れたときに見上げる空は心を癒してくれる。なんて言ってたから。私がアナタの癒しスポットを見付けるんだと躍起になっていた。

いつもアナタは私が側に行くと、優しく微笑んでどこか行こうかと誘ってくれる。どこか行くだけじゃなくて、私がゆっくりお話したいなって思ってるときは、今日はゆっくりお話しようか。なんて言ってくれる。エスパーなのかな。私の心読まれてる?

私の心が丸裸にでもされたら恥ずかしすぎて蒸発してしまいそうだ。普段はあんまり言葉も上手く使えないのに、心の中ではこんなにもお喋りだなんて。こっそりアナタの癒しスポットを探し回っているのもバレてしまう。見付けるまでは内緒なんだ。これは絶対だ。アナタの驚いた顔が見たいから。

アナタはきっと、自分の為に時間を使いなさいとか、一緒に二人で探そうだとか言うんだろうけど。違うんだから。私が私の為にアナタの癒しスポットを見付けたいだけなんだから。勘違いしないでよね。アナタが喜んでくれたら私が嬉しいから、私の為なんだ。素敵な景色を見付けたらちょっとだけドヤ顔するって決めてるんだからね。

この世界はどこも美しくてため息が出てしまいそうなくらい繊細で見渡す限りの絶景だけれど、その中でもアナタ好みの場所を隈なく探し回るのはメインストーリーを進めるよりも楽しい時間だった。もちろんメインストーリーも楽しいし、進めないと新しいエリアが解放されないから、ちゃんと進めてるけどね。メインストーリーを進めるのに、必要レベルというものがあって私はレベルが足りずに行き詰ったまま、景色探しをしていた。そろそろストーリー進めないとと思っていると、やっぱりアナタは私の心を見透かしていた。

「今日はレベル上げしよっか」

「うん」

 大好き。

「いくよー!」

 どこまででも付いて行きます。よろしくお願い致します。一生ついて行きます。

「即シャキ!」

 申請するとすぐにシャキーンという音が鳴った。

 

 出会ったあの頃と違って、私の親指くんは著しい成長を見せていた。完璧な立ち回り。完璧な回復。完璧な攻撃。完璧なフォロー。完璧な移動。完璧な……あ、動かなくなった。あ、死んだ。ついに私の親指の動きにシステムがついてこれなくなったか。秘密の特訓の成果だな。親指氏少し手加減をしてやるんだ、相手は早すぎてこちらの動きを感知出来てないようだぞ。

「あの攻撃のときは視線切るんだよ? じゃないと石化しちゃうからね」

 あ、はい。ごめんなさい。親指氏は悪くなかった、司令塔がポンコツなだけだった。我が脳みそよ学習しないとかき混ぜちゃるぞ?

 前にも教えてもらった覚えがあるけれど、アナタは何度だって優しく教えてくれる。少しずつ覚えればいいからって。

「うん」

 

 いつもアナタは24時を過ぎる頃には眠りにつく、私はもう少し夜更かしをしても平気だけれど、アナタが眠るのなら私も眠る。エオルゼアで会った次は夢の中でアナタと会うんだ。

 夢で会う前にエオルゼアでひと時の別れを惜しむ。明日また会えるのに、すぐまた会えるのになんだか胸がぎゅっとなる。1秒たりとも離れたくない私はもう依存症なんだと思う。これは末期で完治しないので、出来る限りでいいから、アナタの時間を私にください。私の側にいてください。特効薬があるとしたら、「死」かもしれない。でも死んだとしてもきっとアナタのことを思い続けると思うのでやっぱり特効薬はありません。アナタの側に1秒でも長くいたい私は簡単には死にません。不死身です。ゾンビにだってなってやります。でもゾンビって感染するんだっけ? だったら感染しない距離を保ちつつアナタを見つめ続けます。もうゾンビストーカーです。アナタが地球なら私は月です。ぐるぐるぐるぐるアナタのまわりをまわり続けます。ぐるぐるぐるぐる頭で、ぐるぐるぐるぐる心で、アナタを想って。

 アナタと出会う前はアナタがいないのが当たり前だったはずなのに、アナタがいない日々を想像もできないくらいにアナタに夢中です。想像したくありません。想像する必要もありません。私の心はアナタで出来ているので。アナタが埋めてくれたピースは消えることはありません。

 ついに見つけたんです。アナタが気に入ってくれそうなアナタ好みの景色を。だから早くアナタに教えたい。アナタと一緒にこの景色を見たい。この景色を見ているアナタを見たい。

 天気や時間も完全な状態でアナタをこの場所に連れていきたい。アナタの好きな空が見えるよ。新しい一日を告げる光が海と空の境目を曖昧にして交わって溶け合うような景色。優しく鼓膜を撫でる水の音。まるで星が空から溶け出して地上に授かったかのように、アナタの瞳は輝くだろうと、確信をした。月が昇ってくる。左手の薬指を空にかざして重ねてみる。さあ、もう少し待ったら最高のシチュエーションが訪れる。今宵アナタの眠りが安らぎで満たされるよう祈りを込めて。アナタを迎えに行くよ。思えば初めてかもしれない、私からちゃんとお誘いするの。ちょっと緊張するな。上手く誘えるかな。でも負けない。上手く誘えなくてもいいや。アナタをここに連れてきて、アナタが喜んでくれたらそれだけで嬉しいんだ。心がぴょんぴょんする。アナタの元へとビュンっと飛んでいくよ。

 

「サクラと出会わない方がよかったんじゃないかって」

 そっか、そうだよね。うん、分かるよ。私なんかじゃなくてアナタにはもっと素敵な人の方がお似合いだものね、でもアナタはこんな私にも優しくしてくれる。勘違いしていたのかな。一人で浮かれてしまっていたのかな。アナタは私に縛られるべきではない。アナタが幸せになれるなら私が側にいなくても平気。だからアナタは幸せにならないとダメ。絶対に。

「おやすみなさいしにきたよ」

「もう寝るのか?」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみ」

 

 気付かなかったな、浮足立って浮かれて浮ついた心で自分のことばかり考えていた。アナタの側にいるのが心地よすぎて、アナタのこと全然考えられてなかった。私ばっかり幸せで、そんなの平等じゃない。アナタが幸せじゃないと嫌なの。私はアナタが喜んでくれればそれでいいの。それだけでいいの。その為に私がいらないのなら、私はアナタの元から離れる。本当は離れたくないけれど、アナタが幸せなら私は耐えられる。私こう見えても強いんだから。だからアナタは絶対に幸せにならなくちゃいけないの。これは私からアナタへの最初で最後のお願いなんだから、一つくらい聞いてくれてもいいでしょ。

 アナタは私がお願いする前に私の望むことをしてくれた。私の側にいてくれた。一緒に歩いて一緒に笑ってくれた。私からアナタへ出来る最後の唯一のこと。私はアナタを置き去りにして、この世界にお別れをするよ。

 いきなりいなくなってひどい女だと貶してください。散々してもらってばかりで感謝もまともに伝えず何一つ恩返しすることなく去る私を軽蔑してください。ひどい女と出会った思い出を笑い話にしてください。

 私はアナタと過ごした時間の全てが宝物です。もう私はこれだけで十分すぎるのです。本当にありがとう。こんなにも心が揺れ動いて、こんなにも心が満たされたのは初めてなんです。今まで心に蓋をして口を閉ざして生きていくのが楽だと。それが正しい生き方なんだと思っていました。だけど違いました。アナタが私に教えてくれた。伝えたいことを伝える。それは不器用でもいい。言葉じゃなくたっていい。アナタに伝えたかったな。

 

 大好きだよ。愛してる。

 

 もっとちゃんと伝えるべきだった。今になって後悔する。いつもそうだ私は後悔ばかり。上手く生きられない私の上手な生き方が心を閉ざすことだったのに、それは間違いだった。

 アナタに伝えたい言葉がいっぱい溢れ出てくる。どうして伝えられなかったんだろう、どうして気付けなかったんだろう。こんなにもいっぱいに溢れているのに。どうしようもなくガラクタのような私だけが残ってしまった。

 アナタと出会って、アナタと過ごして。私は生きているんだって思ったよ。こんなにも人を好きになる日がくるなんて思ってもみなかった。私は幸せ者だ。なのにどうしてだろう涙が止まらないよ。

 私はアナタを幸せにすることは出来ないけれど、私はアナタの幸せを切に願っている。アナタの歩む先に幸あらんことを。勝手に。自分勝手な私を許してくれとは言わない。大切な人を傷付けてしまった私は本当にどうしようもない。でもどうしようもない私だから気付けたのかもしれない。アナタに想いを伝えられなくてよかった。伝えてしまっていたら、アナタは優しく全てを受け入れてくれるだろうから。私なんかを受け入れたってアナタは幸せになんてなれないのにね。そんな不器用に全力で優しいアナタが好きだよ。

 きっとアナタはこの先もたくさんの人に出会うでしょう。アナタの魅力に気付く人はたくさん現れると思います。だから私のことは忘れて新しい一歩を踏み出してください。アナタは幸せになれる人です。私が保証します。

 

 エオルゼアの中ではアナタとの絆で輝く左の薬指も、いまの私には何の役割も持たない薬指だけが目の前にある。時折、空にかざして月を乗っけてみる。輝きに満ちたアナタとの日々を思い出すんだ。それだけで充分。私はそれだけで生きていけるよ。こんなにも素敵な宝物をくれてありがとう。

 

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 今夜は空が明るい。薬指に乗せたまん丸の宝石が世界を明るく照らしていた。空が好きなアナタも同じ景色を見ているかな。

 

 

 大きく息を吸って。ふーっと長くどこまでも続くように吐き出した。すっかりと葉桜に変わった最後の花びらを散らして私の息に乗ってどこか遠くへ飛んで行った。

 

 

 思った以上に長々と書き連ねてしまった。アナタのことを思うと今でも私は想いが溢れて止まらないのです。この場だけに収めますのでどうかご容赦ください。

 懺悔にも似たラブレターになってしまったけれど。やっぱりアナタには見せられないね。ラブレターの宛先にはアナタの名前だけを記して私の心の中に大切にしまっておきます。

 

「ハルくん、大好きだよ。」

 うん。

「ハルくん、ありがとう。」

 うん。

「おやすみなさい」

 

 

 

おしまい。

 

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