LLP Labo -FF14 エオルゼア研究所-

ウマいヘタ関係ナシに楽しくがモットーな人達の宴

8月のエオルゼア 19.07.27

 

いつも通りなんとなくログインをした。それはただの習慣だった。

 

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眠たい目をこすりながら朝日を浴び、一杯のコーヒーを飲みながらニュース番組を見る。
どこか遠い世界の出来事をモニター越しに知る。気が滅入る。
何が起ころうとも私の日常に影響を及ぼさない。まるで私は世界から隔離されてしまっているのではないだろうかと錯覚に陥る。ただ、今朝のニュースはいつもより少しだけ身近なものだった。

いつもと同じ道を通って会社に向かう。移ろいゆく季節や天気が様々な表情を見せる。
初夏、新芽の香りとともに遠慮がちな虫の声が聞こえてくる。
5年も通いなれた道、どの表情も見飽きたものだったが、最後の曲がり角にたどり着くと、そこには、いつもと違う光景があった。もちろん今朝のニュースで知っていた為、道端の献花に驚くことはなかった。
虚ろなままその場で手を合わせると、スーツ姿の大柄な男性が現れるのを視界の端に感じた。
おそらく遺族であろう。私は目を合わせないまま一礼をし、その場を去った。


夏至も近づき、家路につく頃、外はまだ明るい。
いつもの道で一つだけ違うのは今朝よりも増えた献花とお供え物。ただ、それも私には過ぎ去っていく景色の一つでしかなかった。
6畳程の狭い1DKの扉を開けると、真っ先に服を脱ぐ。
そして一日を洗い流す。いつも通り仕事も生活も何も問題なく、今日という日が排水溝に消えていく。

与えられた仕事を定められた期間内に処理するだけの仕事にやりがいなどなかった。
いっそのこと辞めてしまいたい。
と思う事もある。しかし、働くことを失ったら私は本当にこの世界から隔離されてしまうと思い、ただそれが怖かった。
「必要とされたい」
風呂上り、髪も乾かさないままパソコンの電源を入れる。
メールのチェックをし、「FINAL FANTASY XIV ONLINE」を立ち上げる。


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 エオルゼアという世界を舞台に「光の戦士」として様々な困難から世界を救う物語である。そしてインターネットを介して沢山の光の戦士たちと交流することができるMMORPGである。


 「Yuki Clover」と名付けられたキャラクターを選択した。ランダム命名で出てきたものに私の名前「由紀」をつけ、少しいじっただけの単純な名前だった。
 雪の降る日に生まれたから「ゆき」という音にそれらしい漢字をあてがって、苗字の「藤野」を足せば、簡単に私「藤野由紀」の出来上がりだ。
この世界の私の分身「Yuki」も同様にシンプルなものだが、命名に1時間以上悩んだのを覚えている。

 

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私はこのエオルゼアという世界を気に入っていた。美しくも幻想的な世界の中で画面越しにたくさんの人と出会うことが出来る。現実から解き放たれた私の分身が世界を旅していく姿を見るのは、とても心地よかった。
最初こそ出会うもの全てが新鮮で感動を覚えるばかりだったが、1年も経つ頃には新鮮味も薄れてしまい、始めた頃のようなあのワクワクする気持ちや感動はなくなっていた。

この世界の多くの人は通称「FC」と呼ばれる「Free Company」というものに所属をしており、それはゲーム内の家族や仲間のようなもので、私もFCメンバー達と同じ時間を共有していた。
「こんばんは!」
ログインしてすぐに挨拶をする。FCチャットを使えば、側にいなくてもFCのメンバー全員と会話できる。

「はい、こんばんは」
マスターが返事をくれ、メンバー達の挨拶が続く。
挨拶も終わり、いつも通り髪を乾かしに離席しようとすると、チャットウィンドウにマスターの発言が流れる。
「これで全員揃ったかな、みんな悪いけどちょっと時間貰えるかな?」
マスターはこのFCを作ってメンバーを集めたお父さんのような人だ。みんなで何かしたいといつも私たちに声を掛ける。
「お、なんすか? また変な遊び思いついたんすか?w」
新しい遊びでも思いついたのかとメンバーの一人が笑う。
「30分くらいなら大丈夫っすー」
ログインしているからといってみんな暇してるとは限らない。それぞれやりたいこともあればともに過ごしたい人もいる。
ただ、私は特に目的もなく惰性でログインしているので基本的に暇だった。
めんどくさいけど、別にやることもないしな……髪……また後でいっか。
「いいですよー」
いつも私たちを遊びに連れまわすマスター。楽しいかって言われたら、まあ楽しいこともある。次は楽しい遊びだといいな。そんな風に思っていた。
「チャット参加でもいいっすか?」
メンバーの言葉にマスターは、直接会って伝えたいと伝えた。どうやら今夜は少し違ったようだ。

いつも優しく私たちを気遣ってくれていたマスター。メンバーの小さな変化にも気付いて、髪型や服装が変われば一番に気付いて褒めてくれる。
「何か見せたいものでもあるんすかー?」
「お、ついに我がFCのハウスもLサイズに引っ越しですか?w」
「すんません、遅れました」


集合する私たちを一瞥したマスターの口から出たそれは
「FCを解散しようと思う」
私の思考を停止させた。


「りょっす……え?ww」
「え?まじっすか?」
「エイプリルフールって今日だっけ?ww」

 

「誠に勝手で申し訳ないけれど、ちょっと疲れちゃった」
いつも優しいあの人は、いつも一人で頑張っていた。

「疲れたってwゲームなのにww」
「そうですよ、もっと楽に楽しめばいいんですよ」
みんなが楽しめるようにって。
自分が好きなこの世界を自分と同じように好きになってもらいたいって。
現実で忘れてしまっている冒険をこの世界で再現できるんだって。
「もちろん誰か代わりにマスターをやってくれる人がいるならFCは譲るよ」

 

「代わりって・・・」
「俺たちだけ残ってもやることも特にないし、FC解散でいいんじゃないすか?」
「FCなくなったって一緒に遊べなくなるわけでもないしな」
「マスターはどうするんですか?」
「少しお休みしようと思うんだ」


何も言えず固まっていた私に
「ユキさん、この世界にはまだまだ貴女の知らないことがたくさんあります。それはきっと待っているだけでは出会えないものです。だから探してみてください、たくさんの楽しいが待っているはずですから」
そう言い残し、この世界を誰よりも愛していた人は私たちを置いて。
「じゃあ、」

 

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「またね」
この世界を去った。


 

8月のエオルゼア
- シロツメクサの憂う夜 19.07.27
-- 次週 ゲネラルパウゼに響く声 19.08.03

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