LLP Labo -FF14 エオルゼア研究所-

ウマいヘタ関係ナシに楽しくがモットーな人達の宴

8月のエオルゼア 19.08.24

 

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FCハウスの庭では、いろいろな植物が栽培されている。実れば収穫され新たな種が植えられていく。
「ホウキグサ、これはね厩舎を掃除するのに使うんですよ」
「そのままな名前ですね」
「実は現実世界にもあるんですよ?」
「え? そうなんですか?」
「ホウキギとも言われてて昔は束ねて草ぼうきとして使われてて。果実も実るんだけど、昔食べる物が無くて困ってた時になんとか食べられないかって工夫に工夫を重ねて、今では畑のキャビアなんて呼ばれてるんですよ」
ローザさんは収穫をしながら続ける。
「旬には少し早いけれど、来月あたりから食べられると思うよ。食べてみたいなって思ったらとんぶりって名前で調べてみてね」
「とんぶり・・・そんな名前の子いませんでしたっけ?」
「それは、トンベリのことかな? とんぶり食べすぎて”みんなの恨み~”って包丁持って追いかけられないように気を付けてね」
何気ない会話が心地よい。

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部長から会議室に呼び出された。先輩も一緒に。
「ハゲは地雷だったかな?」
と先輩はいつものように笑っていた。
会議室に入ると、部長が先日提出した私の企画書を確認するように捲った。
「この企画、まだまだ甘い部分がある」
やっぱりダメかな。そんな甘くないよね。
「ブラッシュアップしていってより良いものにしてもらいたい。小坂くんはそのフォローをしてやってくれ、彼女も初めてのことで分からないことも多いだろう」
営業企画部には私から話を通しておくと部長が言うのを聞くと先輩が私の背中をポンと叩く。
「企画、進めていいってよ」
さっそくスケジュール抑えてこいと先輩に促され、部長と先輩を会議室に残し自席へ戻った。
「どうしたんですか? 随分嬉しそうですね」
話しかけてきたのは、吉田さんだった。企画を進められることを伝えた。
「うお、まじっすか、うちらの部署から企画とかそんなんあるんすか、すごいっすね。めっちゃ応援します」
「ありがとう、ここまで来れたのも支えてくれた人のおかげだから、頑張らないと!」
「最近は私も仕事人間に生まれ変わりましたからね、なんなら先輩のいま持ってる仕事全部引き取ってもいいですけど?」
彼女は大ファンの人気俳優が結婚し、翌日には彼氏に振られ落ち込んで仕事を休んでいた。しかし1週間もすると、「男なんて必要ない」「私は仕事を愛する」と謎の情熱に掻き立てられ、バリバリと仕事をこなすようになっていた。
そのおかげで私も負担が減り、企画を練る時間を作ることができた。だから彼女のおかげでもある。
「吉田さんに全部こなせるかなー?」
任せなさいと胸を張る後輩は数か月前と違ってとても頼もしかった。
毎日のように残業をし、帰りはいつも暗くなってからだったが、あの曲がり角で立ち止まり今日がどんな1日だったか報告することが私の習慣となっていた。


立秋という言葉に疑問を抱かざるを得ない程の暑さに嫌気が差す。盆休みを利用して実家のある山梨に帰省することにした。
電車を乗り継いで3時間もすると数年振りの懐かしい景色に迎えられる。都会では味わえない自然の香りを大きく吸い込んだ。
土の香り、風の匂い、水の音、空の青と照り返す日差し。
「ただいま」
おかえり、と駅まで車で迎えに来た母が笑顔で応じる。
電車は混んでたかとか、近所の佐々木さんの息子さんが結婚するだとか、ダムが放水を始めたかのようにとめどなく他愛のない話が続く。そんなお母さんを見ていて思わず元気そうでよかったと笑った。
「仕事楽しい?」
昨年の私なら適当に濁していただろう。
実家に着くと、懐かしい匂いがした。自分の家特有の何とも言えない、だけどどこか落ち着くあの匂い。自室へ行き、荷物を置く。
高校を卒業後、大学に進学すると同時に上京し、そのまま東京で就職して5年。9年前と変わらぬまま、高校生の女の子の部屋のままだった。
あの頃に取り残されたまま変わらずに、壁に掛けたコルクボードには希望に満ち溢れた笑顔の私がいた。
本棚には同じノートが何冊か並んでいる。毎日欠かさずつけていた日記だった。
その内の1冊を手に取り、パラパラとめくると1番最後のページにたどり着いた。私が上京する前夜のことだった。

※   ※   ※

「ねぇ、私の名前なんで由紀って言うの?」
母と一緒に夕食の準備をしながらそれとなく聞いてみた。
「お父さんに聞いてみた?」
「うん。雪が降っていたからだって」
母が飴色に炒めた玉ねぎとひき肉を捏ねながら笑う。
「雪なんか降ってなかったわよ」
「え、じゃあ、なんで?」
「富士山、家からも見えるでしょう? 上の白い部分って雪なのよ」
そういうと母は窓の方を見ながら言った。
「え? ちょっと待って、富士の雪? ダジャレ?」
あっけにとられていると、遠くを見つめたままの母が続ける。
「お父さんね、大学時代にね、富士山に登るのにハマっててね。どうしてそんなに好きなのか聞いてみたの。そしたら初めて登頂したとき感動したんだって。こんなにも美しい景色があるんだ。小さな命を全て包み込むような壮大さに心を動かさずにはいられなかったんだ、って。なんとなくで生きてきた自分が情けなくなって、それから人生が変わった。そんなようなこと言ってたかな」
母が懐かしむような目をして私に優しく微笑む。
「あなたが産まれたとき、そのときと同じような感動を覚えたって」
吹きこぼれはじめた鍋を見て、母が器用に手の甲でコンロの火を止める。
「全てを包み込むような美しくも幻想的な富士の雪のように、その姿が、その想いが誰かの心を動かすような、そんな温かい人になってほしい」
楕円形に軽くまとめたひき肉が母の右手から左手に飛び、左手から右手に飛び、何度か往復した後に並べられていく。
「あなたが産まれたとき感動して涙を流しながら言ってたけど、小っ恥ずかしくて誤魔化しちゃったんだろうね」
お父さんああいう人だからと母がちらりと居間の方を見る。
「難産だったし、私も余裕ない中、横であまりにも感動するもんだから、私の分まで感動奪われちゃったわよ」
と口を尖らせた母はすぐにいつもの調子で大変だったのよと笑った。

※   ※   ※

ああ、そうだった。取り残されていたのではなく、私があの日に置き去りにしてしまっていたのだ。
「由紀―! ごはーん!」
母の声が響く。
気付けば、日は落ちていた。どうやら眠ってしまっていたようだ。
居間に行くと、父と母が食卓を囲み待っていた。
ハンバーグと里芋の煮つけ、母お手製のドレッシングがかかったサラダ。
「お父さん、お母さん、ありがとう」
零れるように自然と口から出た。
「由紀ちゃんの大好きなハンバーグだぞー」
「私も一緒に作りたかったー」
母と一緒に作るハンバーグが大好きだった。
「じゃあ、明日もハンバーグだね!」
「え、明日も?」
自分で作ってもいいのよ、とすかさず返す母に父はハンバーグ食べたいですと早くも白旗を上げた。
「私、人の心を動かせるような立派な人にはなれるか分からないけど、せめて自分のこころが動くようなそんな人生になるように頑張る」
「急になに言ってんだ。お前が産まれた時点で既に犠牲者が2人いるんだ」
「犠牲は違うでしょ、生まれたばかりの由紀ちゃんより泣き叫ぶお父さんって笑われてたのよ?」
母が冷める前に食べようというと、満場一致となり、いただきますと合掌した。

 

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風呂上り、実家の私の部屋にはパソコンはない。ベランダに出るとしんとした空気を大きく吸い込んだ。
ふと空を見上げると、エオルゼアの夜に見た星空のように数多の星が煌めいていた。
瞬く間に時は過ぎ、束の間の休みも終わりを迎える。お前の人生だ。好きなだけ楽しんでこい、そう送り出され、たくさんの想いを連れて日常へと戻る。

 



8月のエオルゼア
- シロツメクサの憂う夜 19.07.27
-- ゲネラルパウゼに響く声 19.08.03
--- 雨上がりに伸びる影 19.08.10
---- 星合いに想う空 19.08.17
----- 葉落ち穂張る月 19.08.24
------ 次週 黄昏に向かう花 19.08.31
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