LLP Labo -FF14 エオルゼア研究所-

ウマいヘタ関係ナシに楽しくがモットーな人達の宴

12月のエオルゼア 第二話 20.12.27

 パソコンが壊れた。8年、いや、7年かな、いずれにしても寿命といえば納得する期間使っていた。ただ、そんなに頻繁に使っていたかというとそうではなかった。学生時代には課題等の為によく使ったものだが、いざ就職してからは会社のパソコンで十分間に合っていた。

買い換える必要はあるのか、今の時代スマホがあればおおよそ事足りる。ただ、壊れたまま修理するでもなく、買い換えるでもなく、そのままにしておくのは何か気持ち悪い気がした。パソコンが壊れた次の休みには家電量販店に向かっていた。

最先端の機械が並ぶ、それを機械と呼称する私をパソコンになど詳しくない素人だと思ってくれて構わない。1個ずつ性能のようなものが書いてあるが、単位からしてそもそも意味不明だ。考えようとするだけで頭が痛くなりそうな、そんな表情をしていたのだろう。お困りですか、と店員が声を掛けてきたのだ。

「パソコンが壊れてしまって、新しいのに買い換えたいんですが……」

「どのようなパソコンをお探しですか?」

「えっと……」

 ぎこちなく笑顔を作って誤魔化す。それを見た店員は察したのであろう爽やかな営業スマイルで案内し始めてくれた。

「以前はデスクトップとノートパソコンどちらお使いでした?」

「ノートパソコンを」

「では今回もノートパソコンにされますか?」

特にこだわりがない旨を伝える。ノートパソコンのコーナーに案内される途中、大きなモニターに一瞬で目を奪われた。画面の大きさに、鮮明さに、それもあったかもしれないけれど、そこに映る壮麗な景色、動き出す躍動感。まるでファンタジーの世界に放り込まれたかのような錯覚を覚えた。

「すごい……この映画――」

「それ、ゲームなんです。ファイナルファンタジーフォーティーンっていうオンラインゲームのトレーラームービーです」

 

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 にこやかな店員が少々お待ちください、とどこかへ消えた。

巨大なモニターに映る映像を食い入るように見ていた。二周目が再生されようとする頃、店員はあるものを手に戻ってきた。

これが私とファイナルファンタジー14との出会いだった。

数日後、店員の勧めで購入したデスクトップ型のパソコン、ゲーム向きだと言われたモニターが届いた。もちろん店頭でみた巨大なモニターではない。何インチとかそういうのは聞いたそばから忘れてしまったが、両手を広げて抱きしめるには十分すぎる大きさだった。

ゲーム用にと一緒に買った真っ赤なコントローラーを見て思わず、頬が綻んだ。これほど胸が躍ってやまないのはなぜだろう。

ゲーム自体ほとんどやったことがなく、もちろん自分で買ったゲームはこれが初めてだ。未知のものに触れる感覚もあった。

「オンラインゲームって普通のゲームと違うのかな? オンラインっていうぐらいだからネットでデータ通信しながら世界が常に広がり続けるのかな!?」

 疑問や不安はたくさんあったけれど、お店で見たあの景色をまた見られるという高揚が勝っていた。

 パソコンの設定に悪戦苦闘しながらもなんとかゲームをする準備が整った。思った以上に時間がかかっていたようで時刻は夜12時を回っていた。少しだけ少しだけと言い聞かせてファイナルファンタジー14を起動させた。

 オープニングムービーをじっくり堪能し十分満足出来たが、これではプレイしたとは言わない。少しだけ中を覗いてみたかった。

 まず、自分が操作するキャラクター作成でああでもないこうでもないと繰り返している内に、時計の針は大きく進んでいた。おかげで満足のいく仕上がりとなったが、流石にこの日はここで終わることにした。

 はじめの内は、操作やシステムを理解するのに苦労したが、メインクエストと呼ばれるこのゲームの本筋をプレイする分には支障がないくらいにはなった。

 「オンラインゲーム」というのはその名の通りオンラインで繋がっているのだ。周りのキャラクターが全てコンピューターというかAIのようなものだと思っていた。しかし、実態は「オンラインで他のユーザーと繋がっているゲーム」だった。

 その実態に物怖じもしたが、目の前に広がる壮麗で雄大な世界に、そして何より世界を救うゲーム上の使命に燃えていた。

 

 人と話すのは得意ではない。相手が何を思っているか分からないし、私の発言が相手を不快にさせたり、傷付けてしまったらどうしよう。私なんかが喋ってもいいのかな。こういうときなんて言えばいいのかな。こんなこと言ったら勘違いされてしまうかな。そう考えている内に会話は別の話題になっている。はっきりいって時間が足りないのだ。私は漫才師のようにポンポンと会話のキャッチボールをすることは出来ない。そんな私を待っているほど暇な人もいないのだろう。ニコニコ笑っていることが私の処世術となったのは至極当然の結果だろう。

 

「こんにちは、そのミラプリ可愛いですね」

街中でボーっと景色に見とれていると、何気ない挨拶が私宛てに届く、初めて貰ったメッセージだった。ゲームを進めていると自動的にパーティが組まれ他のプレイヤーとダンジョンを攻略することがあり、今まで会話と言えば、そのダンジョン内だけ一緒になる相手に「よろしくお願いします」「お疲れ様でした」と交わしたくらいだった。もっとも当初は律儀なAIだなくらいに思っていたのだが。

 そんな挨拶を除けば初めての会話だった。当然私は慌てふためいた。思考がぐるぐる回る。とりあえず挨拶を返すべきだ。でも「こんにちは」だけでは失礼な気もする。せっかく褒めてもらっているのだ。それについても返答をしないと。「ありがとうございます」でいいのだろうか。「こんにちは、ありがとうございます」

私はAIか。もっと何か気の利いた言葉があるだろう。と思案していると

「まだ始めたばかりですか? ゆっくりで大丈夫ですよ。お返事の仕方は分かりますか?」

 待ってくれている? 待ってくれている。一瞬で頭が真っ白になった。

「ありがとうございます」

 気付いたら、それだけ。でも本当に心の底から「ありがとうございます」そう思った。それは褒めてくれたこと。話しかけてくれたことに対してもだが、私のペースに合わせようとしてくれていることが本当に有難かった。

嬉しくて仕方なかった。いつも会話に頷くしか出来ない私がちゃんと会話ができるかもしれない。舞い上がってしまった。けれど、結局最初だけこの人もその内、遅すぎる私に愛想をつかしてしまうのだろう。待たせるということはそれだけ相手の時間を奪うということだ。当然だろう。みんな私の為に生きている訳じゃない。

「ごめんなさい」

 次に出た言葉は、せっかく話しかけてくれたのに、アナタの期待には応えることができない不甲斐ない私で。

「謝らなくて大丈夫だよ、ゆっくりでいいから。もしよかったら少しお話しませんか?」

 甘えてしまってもいいのだろうか。この人の負担になってしまうかもしれない。優しい人ほど人を背負って生きてしまうから。私は重荷にはなりたくない。

「私、喋るの遅くてすごく待たせてしまうと思うんです」

「よーし、じゃあ今日はとことん話そうね!」

 優しく微笑む彼女は、この世界のこと。出会った人たち。普段の過ごし方から好きな食べ物まで。いろいろ話してくれた。私は上手くしゃべれなくて聞いていることの方が多かったけど、とても楽しかった。会話ってこんなにも楽しいものだったなんて。全然窮屈じゃない。

 どうしてこんなにも優しくしてくれるかは分からない。こんなにも楽しくて嬉しい時間がこんなところにあったなんて。

「このゲーム始めてよかった」

「まだ始めたばかりでしょ?この世界にはまだまだたくさんの出会いが待っているよ!これくらいで感動してたら心持たないからね?」

 と、彼女がいたずらに笑う。

「私と一緒に冒険しよ、ツユちゃん」

 そうして、リッカさんとともに過ごす日々が始まった。

 

 すぐにこの人も私に愛想をつかすなんて思っていたことに詫びを入れたいところだが、彼女はそんなこと気にもしないだろう。少しは早くなった気もするが相変わらずゆっくり進むキャッチボール。

「おー、結構進んだねメインクエスト」

「お話が面白すぎて、辞め時分かんなくてどんどん進んじゃいます」

「分かるわー」

 メインクエストは基本的に一人で進めていくものだが、よく様子を見に来てくれていた。

「ねぇねぇ、あそこにモンスターいるでしょ?攻撃すると面白い顔するんだよ!攻撃してみて」

「面白い顔って」

 リッカさんが指さすモンスターに攻撃を仕掛けると、私のHPが一気に減った。気付いた次の瞬間には戦闘不能状態になりフィールドに横たわっていた。

 彼女は大笑いしている。また彼女のいたずらだ。

「ちょっとリッカさん!起こしてください!」

「ごめんごめん!でもツユちゃん、いま面白い顔してるよ~?」

「もう」

 怒った振りしながらも思わず笑ってしまった。

「あの子、リスキーモブだから一人で倒すのは難しいかなー?みんな呼んで仇とっちゃおう」

 そういうと、所属するフリーカンパニーのメンバーに呼びかけた。もちろん私も同じフリーカンパニーに所属させてもらっている。

「ツユちゃんがモブにやられちゃったんだけど、敵討ち手伝ってくれる人募集―」

 彼女がそう声を掛けると、続々とメンバーが集まる。

「ねえ、リッカさん?こんなに大勢で戦うモンスターに私をけしかけたんですか?」

「最後まで立ってたヤツが勝者だ!!いくぞ皆の者!!」

 大勢の猛者の先頭で勇ましく駆けていく。

「ツユちゃんの仇!!」

 私の言葉はリッカさんにもう届いていないようだ。いや、届いていないフリをしているのだろう。まったく。

「ツユちゃんは私の心の中で生き続ける!!」

「私生きてますから!死んでませんから!」

瞬く間にモンスターは討伐された。

「やったね」

 リッカさんが私に優しく微笑みかける。



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