LLP Labo -FF14 エオルゼア研究所-

ウマいヘタ関係ナシに楽しくがモットーな人達の宴

5月のエオルゼア 第六話

 ザナラーンと黒衣森の狭間ででトラベラーを狙った暴漢に襲われているところをアルが助けてくれたのだそうだ。

 アルの話によると、『始まりの朝』と呼ばれるおそらくこの世界に人々が迷い込み始めた最初の頃、同時期にこの世界に迷い込んだ者が多かった。情報も何もなく人々はみな混乱を極めた。戻る方法も分からないまま誰もが絶望に打ちひしがれていた頃、ある噂が広まった。

「この世界はサバイバルゲームだ」

 多くの者を殺し、生き残った数名が元の世界に戻れると。最初は噂程度だったが、ある日起きた事件を境に世界は狂気に満ちてしまった。生きる術も分からず誰が自分の命を狙っているか分からない状況で、不安だけが膨張し疑心暗鬼になった人々は、互いを殺しあった。

 次第に殺戮を繰り返す者と別の道を探す者に分かれていった。殺戮を繰り返す者をディビアントと呼び、道を探す者をトラベラーと呼んだ。いつの間にかディビアントの間では100人殺せば、元の世界に帰れるというのが定説となっていた。その説が定着するきっかけとなった噂がある。それは、「こいつで100人目だ」と言って人を殺したルガディン族の男が消えていなくなったのだそうだ。その様子を見て迷いがなくなった者も多いそうだ。

「その話本当かよ」

「いや、ただのトリックだろう。アイツが何の為に殺戮を扇動するのかは分からないが」

「アイツ?」

「ああ、そのルガディンだった男はエルと呼ばれている」

「エル? 知ってるのか」

「いや、知らない。と思う」「思うってなんだよ」

「エルは姿形を変える」

「それって、幻想薬?」イノリが身を乗り出す。

 幻想薬とはプレイヤーが用いる容姿を変更する為のアイテムだ。見た目も種族も性別すら変えることが出来るものだ。ゲーム上は課金での入手のみとなっており、トラベラーが入手する手段はない。

「どうやってそんなもん手に入れたんだよ」

「分からない。100人目を殺す瞬間にルガディンからララフェルにでも姿を変えて消えたように見せたんだろう。唐突に現れた謎のララフェルを見かけたという噂も流れているが、幻想薬の入手手段が不明確な以上、このトリックは暴かれていない」

 そして道を探す者はひっそりと身を隠し情報を交換し合った。

「んで、その隠れ家として使っていた場所ってのがこのプレイヤー集落に紛れたココって訳か。でも全然客も来ないし、もう情報交換の場としては使ってないのか?」

 椅子に座りながらだらんと脱力したエディがアルに問う。

「ディビアントはお互いを殺め、その数を減らしていった。そうすると次第にここに集まっていた人々は戻る方法を求め旅に出ていったよ。不幸にもディビアントの残党と鉢合わせて亡くなった者も少なくない。モンスターより人間の方がよっぽど危険だ」

 数が少なくなったディビアント達は徒党を組んで人々から金や物、命を奪っているのだそうだ。

「んで、なんでそんな危険なヤツを逃がしちまったんだ? アルさんなら始末できたでしょ?」

「私はディビアントにはならない。いまはレンリに追わせている」

 レンリとはリムサでイノリを担いでいったウサギ耳をしたヴィエラ族の女性のことらしい。

「まとめて始末するって訳だ」

 エディが身を乗り出す。

「殺しはしない。死なない程度に永遠に氷漬けにする」

 アルの語気は変わらないが、声色は酷く冷たい色をしていた。冗談ではなさそうだ。

「アルさんが一番恐ろしいわ」と、エディが身震いしてみせる。

「エディ、新しい魔法の練習台になってみるか?」

 アルさんが表情を変えず、そのまま口角だけをくいっと上げる。

「やべ、用事思い出したわ!」

 エディは物音に驚き飛び退く猫のように逃げ出した。イノリとボクは思わず笑う。ズキっと腹部に痛みが走る。

「この身体回復魔法で治んないかな」

「それはちょっと難しいかな」

 ボクらが使える回復魔法は身体の内部の生命力を癒すもので、モンスターから受けた傷以外は癒せないそうだ。

「傷が癒えるまで大人しくしてろ」と言うとアルも1階へ戻っていった。

 二人きりになった寝室で妙な間が生まれる。

「あ、あのさ……その、ありがとう。ずっと付き添ってくれてたみたいで。イノリはあの後大丈夫だった?」

「うん。ちょーっと体調崩しただけだからもう平気だよ!」

 イノリがニコっと笑うと胸がキュッと締め付けられた。

「ボク、強くなるよ」

「期待してるよー! ちゃんと学者にもなれたし順調だね! そうだ妖精さん呼べるんでしょ!? 今度会わせてね」

「いま呼ぼうか?」

「ううん、いまは無理しないで、ゆっくり休んで」

 そういうとイノリは捲れた布団を掛けなおす。

「イノリ」

「ん? どーした?」

 イノリの優しい声色が耳をくすぐる。

「今度さ、なんかお礼するよ!」

「じゃあ、タピオカミルクティ!」

「それは元の世界に戻ったらね! 他には?」

「……ノーキがいてくれればそれでいい」

「え……。うん」

「なーんてね!」

 またいつもの調子でキャッキャと「アルさーん!」なんて騒ぎながら戻って行った。

「大丈夫。いなくなんてならないよ」

『ふーん、いい子そうじゃない?』

「カーバさん!? どうして?」

『ノーキの魔力ちょっと拝借して勝手に出てきちゃった! てへっ』

「てへって、そんなことできるの?」

『魔力が残ってる内はね、幾らでも吸い上げられるよー。やってみるー?』

 カーバさんがふわりと宙返りしてボクの肩に止まる。

『あ、でもノーキの魔力もうなくなりそう』

「え……」

『光の囁き~』

 カーバさんがいたずらにボクの魔力を吸い上げると、ひどい眠気に襲われてそのまま眠りについた。

『おやすみ、ノーキ』

 

 再び目覚めると痛みは幾分かマシになり起き上がれるようになった。部屋の片隅で、何やら採ってきたであろう資材を倉庫に入れている後ろ姿には赤い尻尾がだらりと伸びていた。

「エディか」

「俺で悪かったな」

「いや別に……」

「ちょうどいい、これから飯にするとこだ。もう起き上がっても平気だろ?」

 エディに誘われ共に1階に上がり、「おはよ~」と言う声に欠伸が混じる。

 イノリの栗色の耳がぴこんと跳ねて料理を運ぶ身体は動かさないまま顔だけこちらに向ける。

「おはよ! あ、ちょっと待ってね!」

 キッチンから運んできた料理をテーブルに並べると、次は木の箱のようなものを持ってきた。

「はい! プレゼント!」

 ひっくり返すと不格好な文字で「ノーキ」と彫られていた。

「ありがとう……」

「ララフェルステップだ。イノリが作ったんだ」とキッチンで料理の盛り付けをしているアルさんがこちらに背を向けながら言う。

 なるほど、身体の小さいララフェル用の踏み台って訳か。

「素材は俺が採って来てやったんだからな」

 先日のアッシュ原木はどうやらこのララフェルステップを作る為だったようだ。アルさんが作ってくれるつもりだったみたいだが、イノリが作りたいと言い出したそうだ。

 早速ララフェルステップを使い一人では登れなかった椅子に座る。これはありがたい。もう恥ずかしい思いしなくて済む。

「一人で座れたね」とイノリがにこっと笑う。

 なんだろう嬉しい気持ちと同じくらい残念な気持ちもする。

 サラダやマフィン、スープ等オシャレなカフェのような食事が並ぶ食卓を4人で囲む。リムサで調理師をかじったおかげでアルさんはかなり高レベルだと分かった。こんがりと焼いたマフィンにチーズとアボカドのようなもの、そしてこれはサーモンだろうか。マフィンを手に取ってみる。

「こんなのまで作れるんだ」

「レンリが時折遠方の食材を届けてくれるからな」

「レンリさん大丈夫かな……」

「心配するな。レンリは今でこそギャザラーメインだが、元は相当腕の立つ忍者だ。そんなことより、しっかり食って身体を治せ」

「身体はもう大丈夫そう。今日ナタクさんのとこ行ってくるよ」

「無理しないでもう少しゆっくりしてからでもいいんじゃないかな?」

「早く強くなりたいんだ」

 いつヤツらが現れるか分からないんだ。早く自分の身は自分で守れるくらいにはならないと。

「まあ、コルク亭行くくらいなら大丈夫だろ」

「じゃあ、私も一緒に行く!」

 

 食事を終えすぐにコルク亭へ向かう為の身支度を整える。アルが拵えてくれた真新しい装備を身に付けると見の引き締まる思いがした。ちゃんと一歩ずつ進んでいこう。そう思えた。

「これ持ってけ」

 アルがイノリに包みを渡す。スンスンとイノリが鼻を動かすと、満面に喜色を湛える。ふわりとシナモンの香りが鼻腔をくすぐった。

 コルク亭へ向かう為、以前3人で通った道をなぞる。リムサ・ロミンサへの道のりと比べれば、ちょっとした散歩くらいの気分でいられた。それほど時間は経ってないハズだが、ほこりを被った学生時代を想い馳せるような懐かしさを感じる。

 先を歩く栗毛の尻尾がピンと伸びるとその宿主が振り返った。

「そーだ! 妖精さんに会いたい!」

『よんだー? 妖精さんじゃなくてフェアリーさんだけどね! まあ、どっちでもいいけど』

 カーバさんがボクの魔力を使ってカーバさんが出てきた。

「また勝手に」

『いいじゃない、減るものでもないし。イノリが会いたいって言ってるんだから』

 いや、魔力は減るんだけど

 イノリが目をまん丸にしてわなわなと震えている。

「わあ、あ、ああ……喋ってる!!」

『イノリはお喋り好き? 一緒にお話しよ』

「うん!」

 妖精は喋らないものだと知っていたらボクもこれくらい感動したのだろうか。

 イノリはカーバさんの周りをウロウロして全身を隈なく眺める。それに合わせて今度はカーバさんがポーズを取る。

 一通りポーズを取り終えると、満足した様子でカーバさんがイノリの肩にちょこんと座る。

『イノリはナイトなのね。こんな華奢な身体でタンクなんて大変そうね。守ってくれる男はいないの? ノーキをタンクにしてイノリが学者になったら? そしたらずっと一緒にいられるよ』

 身勝手な妖精が早くも鞍替えしようとしている。

「それもいいなー」

 イノリが肩に乗って羽を伸ばした妖精の提案に乗っかる。

 勘弁してくれ、せっかく学者になってこれからだって時なのに。

「でも、私は強くてカッコいいタンクに憧れてるんだ! それに、ノーキと一緒にいればカーバさんにはいつでも会えるでしょ?」

『それもそうね』と気楽な妖精の提案はご破算となった。

「どうしてナイトって分かったの?」

『こう見えても見る目はあるの。伊達に長く生きてないわ。もう300年? 400年? 忘れちゃった』

「すごーい! 大先輩だ!」

『イノリはいくつなの?』

「17歳かな?」

 イノリが語尾を上げ疑問符を付けるのは、こちらでどれくらい時間が経過しているか分からないからであろう。17歳で止まってしまった時計の針を再び進めてもいいのか悩んでいるようにも感じた。

『赤ちゃんじゃない。まだまだこれからね』

 カーバさんがイノリの頭に移ると、日差しでいつもより透き通って見える柔らかい髪をわしゃわしゃと撫でる。

「赤ちゃんかー。じゃあ、遠慮なくカーバママに甘えさせてもらおっかな」

『あと100年くらいは甘えてもいいよ。フェアリーの世界では100歳でやっと一人前ってとこかな』

 何百年も生きる妖精からすればボクもイノリと変わらず赤子みたいなものか。この先何百年と生きられればなんだって出来るんだろうな。ぼんやりと気ままにくつろぐカーバさんを見る。

「カーバさん、人間はそんな何百年も生きられないよ」

『そうね、人間はすぐ壊れちゃうものね。この前のノーキみたいにね』

「そんなおもちゃみたいに。それにボクは壊れてないし」

『えいっ』

 ボクの脇腹にカーバさんが飛び蹴りをかますと、激痛に顔が歪んだ。

『強がるのは100年早いわ』

 カーバさんの言う100年は文字通り「100年」なのだろう。

 

 コルク亭にたどり着くと、そこにナタクは見当たらなかった。

「ナタクさん、いないねー」

 ナタクさんはNPCではないので、いつも同じ場所にいるとは限らない。どうも人間味が薄いせいかNPCのようにそこに行けば会えるものだと錯覚していた。

 イノリが「お昼にしよっか!」と待ちきれない様子で言うので、コルク亭付近にある真っ白に泡立ち騒いでいる滝壺に面したベンチに座り、アルから貰った包みを開く。

シナモンの香りとともにリンゴの爽やかな酸味が漂い、清涼な空気に混じった。

 食べやすいようにと4つに切り分けられたアップルタルトをイノリとカーバさんに一切れずつ渡す。余った一切れを布でくるんで、イノリに返す。

「カーバさん食べきれる?」

 自身の身体くらいの大きなそれを抱えて『足りないくらいよ』と得意げな顔をする。イノリはおあずけをされてる犬のように食べるのを今か今かと待ち構え、「いただきます」の合図で頬張った。

 この世界に来てもおやつが食べられる贅沢と、水しぶきから発生するマイナスイオン効果や耳を心地よく刺激する滝の音に満たされた気分がした。

「カーバさんは、ノーキの側にいないときはどこにいるの?」

『妖精の国よ。ここにいる私は魔力の塊みたいなもので実体はずっと妖精の国にいるの。だから使役者の魔力が切れたらこっちにいられないの』

 向こうの私はもっとかわいいのよ? とアップルタルトを頬張り揚々と言う。

「こっちにいるのはテレパシーみたいな感じ?」

『ちょっと違うけど、まあそんなところかしら。イノリはこっちに故郷みたいなところはないの?』

 あの質量はいったいどこへ消えたのだろうか。カーバさんがあっという間に平らげた。

「アルさんのとこかなあ」

 イノリが半分ほど食べ勧めた手元のアップルタルトに視線を落とす。

『それ以外は? 生まれたとことか。どこで生まれたの?』

「どこで生まれたかは分かんないんだけど、気付いたらウルダハにいたかな」

「ウルダハかー、今度行ってみようよ。この前行けなかったし。あ、ボクの故郷は黒衣森になるのかな」

『ノーキには聞いてない。でもたまに生まれ育ったところに帰ってみるのもいいかもね』

「うん……。あんまりいい思い出ないからなあ」

『せっかくの故郷なんだから、いい思い出作って上書きしちゃおう』

 イノリがカーバさんに微笑み応えると、その奥にフードを被った岩のような巨体がコルク亭に入っていくのが見えた。

「あ、いまのナタクさんかな」

 最後の一口を大切そうに口に含むと「いこっか」とイノリがもごもごと言う。

 

 コルク亭に戻ると、さもずっとそこにいたと言わんばかりの様子でナタクが立っていた。 アップルタルトを食べるというイベントフラグを回収したおかげで現れたNPCのように感じた。

「ナタクさん」

 ナタクは振り返ると真っ直ぐに目の前の空気を突き破るようが如く遠くを見つめる。ボクの身長では視界には入っていなさそうだ。カーバさんがナタクの視界を遮り顔の目の前でふわりと舞う。

「何の用だ」

『おっきいねえ、この人! 岩みたい! あ、ほっぺ柔らかいよ! ぷにぷにー』

 カーバさんがナタクの顔をいじっている。ナタクは意に介していない。

「やめなさい。大人しくしてて! すみません……。あの、ノーキです。前にアルさんの紹介でお会いして」

「私がナタクだ」

「はい、知ってます」

「リムサ・ロミンサに行って、学者になってこい。話はそれからだ」

『NPCみたいだね。もう一回話しかけても同じこと言うかも?』

「あの……」

 ナタクが視線を下げボクをまじまじと見る。

「そうか。ついてこい」

 

 ナタクについてフォールゴウドを東へ出た。

 辺りにいた敵は今まで出会ってきたモンスターよりもいくらか強そうだった。ナタクがその中の巨大な木であるドライアドを指さす。

「ドライアドを倒せ。周りの者は手も口も出すな。妖精もだ」

『じゃあ、イノリとお喋りしてよ~。ノーキがんばってー』

「ノーキがんばってね」

 カーバさんがひらひらとイノリの元へ飛んで行った。イノリの声援に力が沸いてくる。

「魔法は使うな」

「え……死んじゃう」

 無茶な制限を課され、本の角で殴り続けるしかなくなった。あんな巨木に本の角で立ち打ち出来るか。

「安心しろ」

 安心した。手助けしてくれるんだな。

「気が向いた時だけ回復してやる」

 ああ、どうやらボクの異世界生活はここまでのようです。

 冗談はさておき、やるしかない。ナタクが人が苦しんで死ぬところを見たがる酔狂な人でなければきっと助けてくれるはず。

 不意打ちをしかけようと恐る恐る背後から近寄ると、ぐるんと一回転し襲い掛かってくる。

 逆に不意打ちを仕掛けられたが怯んでいる暇はない。本の角で殴り掛かる。が、一向に手ごたえがない。

 グルグル一回転したり大きな土煙で吹き飛ばしてきたり、と暴れまわるドライアドに押され体力がぐんぐんと減っていく。勝てそうにない。せめて魔法が使えれば。

「お前は何を望む!?」後方から地鳴りのような声で響く。

 ボクは。小さな世界を守りたい。その為に強くなるんだ。

「敵に打ち勝ち強くなる為です!」

「巴術士で何を学んだ!?」

「戦術は望む現実を作るためにある」

「そうだ! お前は今殴り合いをしているだけだ!」

 戦術を組み上げるんだ。相手を観察しろ。相手のことをもっとよく知るんだ。ボクは知ろうともしないで諦めそうになっていた。

 敵の攻撃パターンは3種類。

 一定の間隔で枝を手の様に使い振り下ろす通常攻撃。

 一回転をして竜巻を起こす周辺攻撃。

 大きく頭を振り前方に土煙を起こす前方攻撃。

 通常攻撃は避けられない。一回転は後方に下がって回避。前方攻撃は敵の裏に回る事で回避できる。残りの体力も少なくなってきた。ミスは命取りになる。

 敵が技を使う前に通常攻撃が一瞬止まる。どちらの技が出てくるかまだ分からない。とりあえず後ろへ飛び退いて回避する。

「前方攻撃か」

 次は一回転かそれとももう一度前方か。ここまで見てきて一回転した後は連続で回転することはなかったはずだ。一回転が来たら……。

「一回転がきた!」

 後方へ回避する。次は必ず前方攻撃だ。敵に一気に近づき攻撃する。通常攻撃が一瞬止まった。

「来る」

 すかさず裏へ回り込む。敵はボクが元いた位置に前方攻撃を放った。背後から本の角を叩きこむ。

「やった……」

 ドライアドが崩れ落ち霧散していった。同時にボクもぺたんと地面に座り込んだ。「ケアルラ」という呪文とともに回復が飛んでくる。

 回復の次に飛び込んできたのはイノリだった。

「がんばったね!」

『ノーキもここまでかー、ってハラハラしたわよ。もう少しだけイノリのとこにお嫁に行くのは待っててあげるわ』とカーバさんが続く。

「次だ。ついてこい」

 ボクらに構う事もなくナタクが目の前の敵を薙ぎ払いながら先へ進む。

 奥まった道を抜けると広場に出た。先ほどのドライアドより強そうな敵がわらわらといる。

「ここからコルク亭まで戻れ」

 それだけならなんとかなりそうだ。今回は魔法を使うなって制約もないみたいだし。

 ここに来るまでナタクが敵を薙ぎ払いながら来たおかげで気付かなかったが、角の生えた鳥のような風体の顔に、ひょろりと長い手足を持つイクサル族はどれもアクティブモンスターのようだ。視界に収まるだけで6体はいる。

 近寄らなければ、戦闘せずにコルク亭へ戻れるかもしれない。

 ナタクの指示で先に戻るカーバさんと何度か振り返りこちらを見るイノリを見送る。

 そっと、イクサル族から距離を取りながら歩く。50M程歩いたところで真横にイクサル族が沸いて出た。モンスターは倒された後しばらくするとリポップする。先ほどナタクが薙ぎ払ったイクサル族がリポップしたのだ。

「どうする。一体なら行けるか」

 イクサル族は自身に魔法を掛け能力値を向上させて攻撃してきた。先ほどのドライアドの様に何度も攻撃を受けていたら身が持たない。

「鼓舞激励の策」自身の周りをバリアで覆う。

 本の角で殴るよりは幾分マシな攻撃魔法で応戦する。

 バリアを切らさなければ、倒せそうだ。案外楽に帰れそうだ。

 背中に衝撃と痛みが走る。

 別のイクサル族が攻撃を仕掛けてきていた。

「くそ、気づかなかった」

 二体のイクサル族から攻撃を受け、すぐにバリアが破れる。

 再びバリアを掛けなおすもすぐにバリアは突破されてしまう。じり貧だ。自分の目の前ばっかりで、周りのことが全く見えてなかった。このままだとじりじりと体力が減っていくだけだ。逃げるか。いや、ダメだ。

 ボクは強くなると決めたんだ。何か策はないか。よく観察しろ。

 イクサル族の攻撃よろけてひざをついた。

「駄目だ、間に合わない……」

 立ち向かって打ち勝つことも、耐え抜くことも出来なかった。ボクの人生そのものだ。

 立ち向かってはいなかったか。痛みに気付かない振りをしてただ平然な振りをしてきた。

 忍耐力には自信があったんだが、この世界ではそうはいかなかった。

 父さん、世界はどうしたら救われるんだ。教えてくれよ。

「逃げることも選択の一つだ。弱さとは、それに気付かない振りをすることだ」

 野太い声が回復魔法とともに飛んできた。

 ボクはそこで意識を失い。ナタクに担がれてコルク亭へと戻った。

 

f:id:ff14atomosllp:20210503131456p:plain

5月のエオルゼア
_2021.05.03 第一話
__2021.05.05 第二話
___2021.05.07 第三話
____2021.05.10 第四話
_____2021.05.12 第五話
______2021.05.14 第六話
_______2021.05.17 第七話
Related Story:8月のエオルゼア / 12月のエオルゼア / 3月のエオルゼア
Presented by LLP

(C) SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
記載されている会社名・製品名・システム名などは、各社の商標、または登録商標です