LLP Labo -FF14 エオルゼア研究所-

ウマいヘタ関係ナシに楽しくがモットーな人達の宴

8月のエオルゼア 最終話

 

f:id:ff14atomosllp:20190727125728j:plain



眠たい目をこすりながらコーヒーを淹れる。
「最近夜更かししすぎだなー、気を付けないと」
相変わらず髪はごわついてるけど、今日は仕事が休みだからだろうか、気分がいい。
「美容院空いてるかな」
いつもの店に電話をすると偶然キャンセルが出たようで空いていた。少しおしゃれをして出かけようと思った。
立秋もとうに過ぎ白露を迎えようというのに、夏本番さながらの暑さ、外では蝉が遠慮なく自己主張をしている。こみ上げる夏の匂いに懐かしさを感じた。
「最近サボってる?」
「わかります?」
「だめだよー? 髪は女の命なんだから」
「私ショートも似合います?」
「どうしたの? 似合うと思うけど……やってみる?」
どうしてだろう、気分がいい。私おかしくなっちゃったのかな?
長かった髪をバッサリと切り落とした私を見て美容師さんが大絶賛するから少しだけ照れくさかった。
「これからデート?」
「なーんにも予定なし!」
「じゃあ、天気も良いしなんでも出来るね! 楽しんでらっしゃい」
「はい、楽しんできます!」
日焼けには気を付けなさいよという美容師さんに生返事をして店を飛び出した。

私の足は自然とあの曲がり角へと向かっていた。
道中購入した竜胆の花を供え、その前に屈み手を合わせる。
目を開けると、視線の端にくたびれた靴を捉えた。
顔を上げるといつもの大きな男性がいた。
立ち上がりお辞儀する。
「よくお似合いですね」
「ありがとうございます。ご家族様ですか」
スーツを着た彼はハンカチで汗をぬぐい取った。
「ええ、私の娘です。いつもありがとうございます」
「心中お察しします」
「あいりとはどこかで」
「いえ、お会いしたことはありません。事故に居合わせた訳でもないんですが、なんだか、その……通り過ぎてはいけない気がして」
「そうですか、ありがとうございます」
暖かく包み込むようなそのまなざしは、どこか遠くを見ているようだった。
「あの、よかったら娘に会ってやってはくれませんか?」
軽く会釈をして立ち去ろうとする私を引き留めた。

「朝起きると娘のお弁当を作ってしまうんですよ、全然上手く出来ないままだったけどいつもきれいに全部食べてくれて……」
「あそこに持っていって結局そのまま持って帰って自分で食べるんですけどね」
今にも崩れそうな笑顔で一生懸命に話すのを聞きながら10分程歩くと、彼の家に着いた。
「どうぞ」
案内されるまま、向かった和室には、若い女性とあいりさんの遺影が並んでいた。
「5年前、娘が生まれたときにね」
そういうと、彼はお茶を入れるといい台所へ向かった。
線香をあげ、長居しても悪いと思い早々に立ち去ろうと思った。
台所の方にご挨拶に向かう。
「あっ」
台所の先の居間に見付けたぬいぐるみに思わず声が漏れた。
「ご存知ですか? ウソウソって言うんですけど、娘が好きでして」
彼はウソウソのぬいぐるみを優しくなでながら続けた。
「女の子の遊び方なんて知らないものですから、おままごとの代わりに娘と一緒に楽しんでたゲームなんですけど」
そういうと居間のテーブルにお茶の入った花柄のグラスを置き、どうぞと促した。
いただきますとグラスに口を付けると、カランと氷がグラスに当たる音がした。
彼は大きな身体でウソウソのぬいぐるみを大事そうに抱えながら居間のコントローラを見つめた。

――「この子寂しそう」
「そうかな?」
「もっとみんなで楽しいことしたい!」
コントローラを握る父の膝の上で娘が目を輝かせて言う。――

――「ねぇ、かくれんぼなのに誰も探してなくない?」
「そうだねぇ、みんな違う事しはじめちゃったね」
「もっと面白いことしたい」
ぬいぐるみを抱きしめたまま口を尖らせる。――

――「お家かわいくしたらみんな楽しいかな!」
「え……ハウジングは難しいんだよ?」
「パパ頑張ってよ」
「はい…‥がんばります……」
娘がいたずらな表情で父を見る。――

――「ねぇ、パパ! この景色すごくきれい!! 皆にも教えてあげよ!!」
「ちょっと待ってね、みんなに言ってみるね」
「みんなで一緒に見たいな~」
「そうだね」
左右に身体を揺する娘の頭を撫でる。――

――「あ、ユキちゃん髪型変わった! 可愛い!」
「お~ホントだ」
「ねぇ、ちゃんと可愛いって言ってあげて!」
「うん、わかったけどそんなに画面に近づくと目悪くなるぞー?」
ちょっと不満そうに返事をしながらも笑顔で画面を見ている。――

「生まれたときには家族は私と娘の二人きりでしたから、ゲームの中で家族のような繋がりを持てることが嬉しかったんだと思います」
「実は私もそのゲームやってて」
「そうですか、どこかでお会いしていたかもしれませんね」
「あの、いまは……」
私が言葉を探しているのに気付いてか
「今はもう辞めてしまいました。FCのみんなには悪いことをしました。娘も怒っているかもしれません」
汗をかいたグラスを見つめながら彼は言った。
「だったらもう一度やり直してみるのはいかがですか?」
「私一人では何もできないですし、適当に理由を付けて逃げてしまったのでもう忘れられてしまっていると思います」
「忘れたりなんかしません! いまはまだ辛いかもしれませんが、いつか必ず戻ってきてください。あいりさんが愛した……あなたが愛した世界が待っています」
「……ありがとう」
「誰かの為じゃなく自分自身の為に過ごしてみてください、きっとあいりさんもそれを願っていると思います」
どうしてだろう、涙が止まらない。
「勝手なことばかり言ってごめんなさい……。でも、きっと待ってるだけじゃ出会えないものだから」
「あなたはあの世界を楽しんでいますか?」
私は迷わず答えた。
「そうですか。それは、良かった」
そう呟くように言うと暖かい陽だまりのような笑顔で花柄のグラスを見つめた。カランと音がすると、マツムシが遠慮がちに鳴き始めた。

 


風呂上り、真っ先に髪を乾かした。ショートにしたおかげでいつもの半分くらいの時間で乾かし終わった。
ふと顔を上げるとまだ見慣れない髪型の私が映った。
「よくお似合いですね」
新しいFCのマスターはへんてこな羊の大男だけど、マスターみたいになんでもしてくれる優しい人じゃないけれど
「ちゃんとあったよ。こんなにもたくさん」
いつも通りなんとなくログインをした。それはただの習慣だった。
「私、すっごく楽しいんだ」

 

f:id:ff14atomosllp:20190907142533j:plain

 

f:id:ff14atomosllp:20190907142600j:plain

 

 

辺りは暗くなり、遠くから地響きのような音が振動として伝わってくる。
空を見上げると、薄明かりの空に星が散りばめられている。エオルゼアの星はとてもよく輝いて思わず見とれてしまう。
「みんなで一緒に花火見に行きませんか?」
FCチャットが一気にざわつく。
「見に行こ!」
とその場にいたメンバーに声を掛けると羊の男をはじめメンバーが賛同する。早速テレポをする。この世界はどこだってテレポでひとっ飛びだ。
夜空で誇っていた星々を忘れさせるほど、大きな花火が打ちあがる。
花火が良く見えるいい場所だねと、皆が写真を撮ったり踊ってみたりと思い思いに過ごす。
そんな仲間たちと夜空に咲く大輪に心を奪われていると羊の男が私の横に並ぶ。
「まるで夜空へ吸い込まれていくようですね」
羊の男がうんと頷く。
「あの瞬きは私の心を動かしたあと、どこへ行ってしまうんでしょうね」
「明日かな、それとも」
分からない。私の見つめた輝きの先に何が待っているかなんて分からない。でも行ってみたいんだ。きっと新しい出会いが待っているはずだから。

 

f:id:ff14atomosllp:20190907142707j:plain

 



「ねぇ、やってみたいことがあるんだけど」
このFCに来て1年が経った。楽しいかどうかは分からないけれどやってみたいことがあるんだ。
「やってみよう!」
「いつにする」
「どこでやろうか!」
まだ何も言ってないのに話が進んでいく。
「で、なにするんだっけ?w」
みんなとならきっとどんなことでも楽しく過ごせる。
私は一人じゃない、一歩踏み出せば仲間がいる。ほら、あなたも。
――おいで。一緒に行こう。




 

おしまい

 

8月のエオルゼア
- シロツメクサの憂う夜 19.07.27
-- ゲネラルパウゼに響く声 19.08.03
--- 雨上がりに伸びる影 19.08.10
---- 星合いに想う空 19.08.17
----- 葉落ち穂張る月 19.08.24
------ 黄昏に向かう花 19.08.31
------- この世界の向こうに 19.09.07
Presented by LLP
 
Copyright (C) 2010 - 2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

(C) SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
記載されている会社名・製品名・システム名などは、各社の商標、または登録商標です