LLP Labo -FF14 エオルゼア研究所-

ウマいヘタ関係ナシに楽しくがモットーな人達の宴

5月のエオルゼア 最終話

 魔導ターミナルを使って移動した先は最終層の衛兵宿房と呼ばれる場所。人が寝泊まり出来そうな場所には到底思えないが、これまで通ってた中では割と広く、案外悪くもないのかもしれない。

「いないね」

「無事だといいけど」

「うん、もしかしたらダンジョンを脱出してフィールドにいるのかもね」

 最終層は、衛兵宿房から聖ダナフェン礼拝堂へと続く一本道となっている。そして聖ダナフェン礼拝堂で待ち受けるボスを倒せばダンジョンクリアとなる。

 衛兵宿房の敵を殲滅すると、2箇所の魔導ターミナルを踏んで最奥への道を開放する。

 第二層から転送されてくる音がした。

「誰?」

 その姿はエディでもビザールでもなかった。

「スプレッドショット」

 銃を携えたアウラ族の男がノーキとイノリの足元に銃弾を撃ち込む。悪意も殺意すら隠す気のない攻撃にすぐに察知した。

「ディビアントだ!」

 すかさずルインガを唱えて応戦するが、ルガディン族の大男が斧で弾き落とす。

「奥へ!」イノリが盾で銃弾を受け流しながら、奥へと逃げ込む。

 タンクと遠距離DPSという構成こそ同じだったが、こちらは走りながら魔法を撃てない。アウラ族の男はノーキとイノリを追いかけながら銃弾を撃ち込み二人の体力を削っていく。身体を掠めていく弾丸の一つ一つが重い。かなりの手練れのようだ。ヤツらは狩りを楽しむかのようにゆっくりと追いかけてくる。

 ボクらは追いやられるように、ボスが待つ聖ダナフェン礼拝堂へ追い詰められた。

「待って! これ以上進むとボスが」

 考えろ。考えるんだ。何かこの窮地を脱する方法を探すんだ。まともにやりあったら勝ち目は薄い。ならば第三の勢力としてボスを交え可能性を模索するべきか。この状況でボスの相手もとなると危険が増すばかりか。いや、迷ってる暇はない。

「行こう!」

 ボクらとボスとヤツらの三つ巴の位置さえ取れれば、活路が見いだせるはずだ。

「バンッ――」銃声と共にイノリが右肩を押さえしゃがみ込む。「イノリ!」駆け寄りイノリの身体を支える。ボスとヤツらに挟まれることとなった。

 想定しうる中で最悪の状況に陥ってしまった。

 

「鬼ごっこは終わりかい?」

「待て、J。俺たちの仕事はここまでだ。Lを待つんだ」ルガディン族の大男がJと呼ぶアウラ族の男を制止する。

「どーせ放っておいてもこいつら、ボスに食われちまうぜ? だったら俺がやっちまっても構わねえよなあ?」「ダメだ」

「ッチ! んな頭かてーとハゲんぞ、K。頭撃ち抜いて柔らかくしてやろうか?」「目的を見誤るな」

 Kと呼ばれたルガディンの制止でJが銃を下す。

 助かった。Lが到着するまでは手を出してこないようだ。Lってアルの話に出てきたあの噂のディビアントのエルなのだろうか。ひとまずは目の前のボスに集中しよう。イノリは、ここへ逃げ込むまでのダメージと先ほどの一撃でしばらく戦えそうにない。

「イノリ、奴らを見張っていてくれ。油断させる罠かもしれない。ボスはボク一人でやる」

「一人で、大丈夫……?」

「ああ、大丈夫だ。任せて」

 ゼーメル要塞最奥のボス、バトラールと対峙する。

 

「――邪魔だなこいつ」

 ノーキの後方に待ち構えるディビアント達の更に後方から聞き覚えのある声がする。「トランス・バハムート――」「デスフレア!!」

 バトラールが光の柱に包まれる。バトラールは崩れ落ち黒く禍々しい光を発しながら霧散していった。

「ビザール!」

 助かった。まさかビザールがボスを一撃で仕留めてしまうほどの力を持っていたとは知らなかったが、これでディビアントどもに対抗できそうだ。

 

 ただ、まずはイノリの回復が先だ。

 

「回復を!」ノーキの叫ぶ声に応えようとしないビザール。

「一匹死にぞこないが転がってるから」

 Kが頷き来た道を引き返すとJと呼ばれた男も付いて行く。

「え……?」状況が読めない。「まさか……Lって、ビザールお前だったのか」

「やっと気付いたのか? 全く疑う様子もなかったから逆に騙されているのかと心配になったくらいさ。アルとあの妖精には勘付かれそうだったけどね。だから早々に退場してもらったよ。俺は召喚士だ、回復魔法なんて使わない」

「嘘だろ? 仲間を探すんだろ? ちゃんと見つかったのか? さっきのあいつらが捜してた仲間か?」

「お前は馬鹿か?」

 何か怖い目にあって気が動転しているんだろうか。きっとそうに違いない。そうだと言ってくれ。

「何があったんだ? どうした、大丈夫だ、もう敵はいない安心してくれ!」

「おいおいおい、お前頭ン中腐ってんのか? 俺がその敵だって言ってんだ。お前らが忌み嫌ってるディビアントだ! お前の大事なお仲間もちゃんといたぶっておいてやったぞ」

 中層で二手に分かれて合流した時にはエディの姿はなく、先に進んだと思ったけどいなくて、ビザールが探しに行ってる間に僕らは最終層に足を踏み入れた。最終層でディビアント二人組に襲われてボスのいる聖ダナフェン礼拝堂へ追い込まれた。窮地に立たされたところでビザールが現れてボスを一撃で葬った。ビザールがエルで、自分をディビアントだと言う。そしてエディの姿は見当たらない。

「エディ……エディはどうした!?」

「ああ、なかなかしぶとかったよ、殺さないようにいたぶるのって、難しいね」高笑いをするビザール。

「嘘だろ……なあ! 嘘なんだよな!?」

「受け入れなよ。現実を――トライディザスター!」ビザールが発動した魔法がイノリに命中する。

「ノーキもうもたない……!」崩れ落ちるイノリ。

「これで、終わりだ!」

 ビザールの口元が終わりを告げる呪文を唱えるように動くと突風が吹いた。

 

「――必殺剣・暁天」

 

突如、風の如く現れたのは、良く知っている赤髪の後ろ姿。いつもの力強い背中は影を潜め必死に踏ん張り堪えるエディ。至近距離でビザールが発動した魔法を身体で受け止める。エディが攻撃に押され左足が一歩後方に下がる。その勢いのまま納刀する。

 エディの足元で雪の結晶が広がっていくと一閃、太刀筋が三日月を描き辺りに花びらが舞った。

 最後の力を振り絞ったエディがその場で倒れ込む。

 

 エディの急襲に深手を負ったビザールが傷口を押さえよろめく。

「なんでお前がここに。虫けらごときが! 邪魔をするな」

 苛立ちに任せエディを蹴り飛ばす。エディの身体は宙に舞いボクの足元に転がってくる。

「エディ!!」

「レンリが、奴らを倒したら、ここへ……来るはずだ。ノーキ……あとは頼んだ。イノリを守れ……!」意識を失うエディ。

 

 エディもイノリも虫の息だ。レンリが来るまでボクが守り切る。

 

 エディとイノリを巻き込まないようにビザールに距離をつめていく。ビザールはボクの動きには全く意に介さず、ただ待ち受けている。一気に間合いを詰め魔法を唱える。ビザールがそれに合わせて同じ魔法を唱える。ビザールの方が発動が早い。力の差は歴然だった。ボクの力では、歯が立たない。

 

 どうすればいいと考えながら戦うも活路が見いだせない。ボクが発動する魔法に呼応して同じ魔法を発動するビザール。

 ビザールは完全にミラー戦術を取っている。同じ魔法同じ攻撃を繰り返せば、両者の力の差がそのまま結果に直結する。

「隙を作らないと……」

 ビザールはエディから受けた深手こそあるが、まだピンピンしている。ボクの体力は、もう尽きかけていた。隙を作るどころか思うように身体が動かない。

「もう終わり?」

 ビザールがイノリに近寄りイノリを舐めるように見る。

「おっかしーなー。こいつもしぶといね」

「……なんでだよ。なんでこんなことするんだよ」

 ボクの声に反応してビザールが振り向く。

「人間って愚かだよな。人を殺すなんてありえないと虫も殺さないような顔していても、いざ自分が生きる為とあらば簡単に人を殺す。『始まりの朝』って知ってるか? 俺たちの間ではな『選択の朝』って呼んでるんだ。選ぶ側になりたかったら奪えと。弱いヤツはみんな選ばれる側だ。精神が弱いヤツは『あの朝』に疑心暗鬼になって自滅してったよ。頭の弱いヤツもな。俺は大勢の雑魚どもの結末を選んできてやったさ。ああ、なかなか強いやつもいたな、でも馬鹿は救えないな、最後まで俺を仲間だと信じて死んでいったさ。なんだっけアイツ。ニール? ニーズ? ああ、ニースだ。お前そいつによく似てるよ。雑魚だけど」

「……ニース……?」

「お嬢ちゃんまだ生きてたの。ホントしぶといね。でも嫌いじゃないよ~」イノリを見下ろしながらビザールが続ける「ホントは誰でも良かったんだけどね。キミで100人目だ。おめでとう!」手を叩く音だけが礼拝堂に響く。

 

「死に際の絶望に満ちた表情を見るのが溜まらないんだ」横たわるイノリの頭を踏みつける「こんな風にね!」

「イノリ!!」

「もともと俺たちは獣なんだよ、ここは自由だ。何にも縛られない世界に来てみてどうだ? 簡単に殺すだろ? 自分が生きる為によ!」

「違う!」

「違わない! それがあるべき姿なんだ。平和なんて弱いヤツが弱いヤツを守る為の詭弁だろ? だからお前らみたいな軟弱な奴らで溢れてるんだ。そうじゃなきゃおかしいよなあ!?」

「誰かを傷つけたり、殺していい理由なんてない!」

「そんな生易しい頭じゃ誰も救えない、お前自身もお前の仲間もな!お前が俺を殺さない限り、俺がお前らを殺す」

「ボクは……」

「来いよ。お前も殺したくて仕方ないだろう?俺を。どっちが選ぶ側か教えてやるよ」

「や、めて……」イノリが息も絶え絶え伸ばした手はすぐに蹴飛ばされた。

「チッ! このクソ猫まだ生きてんな。お前から先に死ぬか?」イノリの頭をわしづかみにすると「アルのとこに雑魚が集まってるって聞いて最初から全員殺すつもりで来たんだよ」と救いはないのかと絶望を顔に浮かべたノーキを見る為に視線を送る。

「やめろ……俺でいい。俺を殺してくれ。それで許してくれ……」

「んー、お前つまんな。もっと足掻いてみろよ。助けてくださいって醜く懇願してみろよ。俺の気が変わるかもしれないだろ?」

 圧倒的に優位な状況に後押しされあざ笑うような表情をする。

「イノリだけは……イノリだけは助けてください。お願いします」

「お願いの仕方も知らないのか? こうだろ!?」

 ビザールがノーキの頭を踏みつける。ノーキはされるがまま地にひれ伏す。

「やっぱアッチにするよ」

 ビザールを止めようと掴みかかるイメージだけが先行し、起こした上体がそのまま地面に吸い込まれる。かろうじて伸びた手もイノリには届かない。

「イノリに触るな!!」片足ずつ踏みしめるように力を込めてゆっくりと立ち上がる。

「……ノーキ……ダメ、逃げて……」

 

 もうボクに残された選択肢は一つしかない。次の一撃に全てを込める。この命を燃やし尽くしてでもイノリを救う!

 

「サモン・バハムート」

 ノーキの召喚に応じてバハムートが顕現する。ビザールがこちらに気付くがもう遅い!

『アクモーン』

 バハムートから放たれた光の環で辺りが包まれた。ありったけの力を注ぎこんだ最後の一撃だった。

 

 光が消失するとビザールが倒れていた。

 よかった。助かった。イノリもエディも守れたよ。あとはレンリの到着を待てばいい。

 立ち上がる力も残っておらず、イノリの元へ這っていく。

「イノリ……もう大丈夫だ! 今度イシュガルド行こうな、タピオカミルクティも飲ませてやる。だから……」

 背後に気配を感じる。やっとレンリが来た。もうこれで安心だ。イノリに怖い思いさせちゃったな。せっかく前を向こうとしているのに、これもボクが弱いせいか。もっと強くなろう。こんな奴らに負けないくらい。レンリさんはやっぱり強いな。あのJとKだっけ? あいつらも相当手練れだったろうに、エディを逃がしてたった一人であの二人を倒しきるなんて。アルさんよりも強いのかな。ああ、そうだ後でアルさんのお弁当食べないと。みんなでお弁当もってピクニックとか楽しそうだな。みんなで雪合戦もしにこよう。

 

「ビザール!?」

 ビザールがノーキの背後から襲い掛かる。ノーキに覆いかぶさるようにイノリが割って入る。

「ちゃんと、守れ……たかな……」

イノリを抱きしめるが、イノリの身体は光と混じって手から零れ落ちる。イノリのロザリオだけがボクの拳の中に残った。

「イノリ!!!!」

イノリの姿はまるで最初からそこになかったかのように跡形もなく消えた。

 

 気付いたらビザールに馬乗りになって殴りつけていた。何度も何度も。いつの間にかビザールの身体も消え、地面を殴り続けていた。

 

「ごめん、何にも……してやれなくて」

 ボクは何にもあの日から何も変わってない。

――例えば家族とか友だちとか大切な人。それが小さな世界だ。

 小さな世界すら救えなかった。

――自分の手の届くところから始めるんだ。それが積み重なっていつか大きな世界を救う力になるんだ

 もう届かないんだよ。世界なんて救わなくたってよかった。小さな世界が、イノリが救えればそれだけで……でもイノリはもう……。俺がちゃんとアイツを殺さなかったから、だから。

 

 頬に流れた温かい感情を血まみれの拳で拭った。

 

 

「俺が全てを終わらせる」

 

 

 

 

おしまい

 

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5月のエオルゼア
_2021.05.03 第一話
__2021.05.05 第二話
___2021.05.07 第三話
____2021.05.10 第四話
_____2021.05.12 第五話
______2021.05.14 第六話
_______2021.05.17 第七話
________2021.05.19 第八話
_________2021.05.21 第九話
__________2021.05.24 最終話
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